あぁ神様。世の中どうかしてます。理不尽すぎます。
人を好きになるのは自然な事で、それは誰にでも平等に訪れるものじゃないんですか?
まぁその恋が叶うかどうかは別として・・・・

神様、とにかくこの世は理不尽です。
どうして・・・・どうして私の好きになった人は・・・・


私の兄なんでしょうか。


I'm Mess!!



「憂輝( うき )、こちらが今日からあなたのお兄ちゃんになる篠崎眞咲君よ。」
兄をそう紹介されたのは、2年前。私が13歳の時だった。
「よろしく憂輝ちゃん、実の兄だと思ってどんどん使ってやってくれ!な、眞咲!」
この日、兄とともに新しい家族になったお父さんは豪快に笑いながら眞咲と呼ばれた私より少し年上の男の子の肩を叩いた。
「痛ぇよ親父!!」
眞咲( まさき )――新しいお兄ちゃんは、本当に痛そうに叩かれた肩をかばいながらそう言うと、私に向き直った。
そして、少年らしい何とも無邪気なにっこりとした笑顔を浮かべて手を差し出す。

「よろしくな、憂輝!」

この時単純にも私は「あぁ、お兄ちゃんってなんていい人なんだろう」と思い
「よろしくっ」
そう言って、ただただ嬉しくて差し出された手を握り返したのだった。
今になれば何であの時この再婚を許してしまったんだろう、と後悔するばかり。
あぁ・・・どうして私は・・・「お兄ちゃん」なんか好きになっちゃったんだろう・・・・。

「憂輝ー、朝だぞー。」
朝。
頭まですっぽりと布団をかぶっている私を、気だるそうな声で起こしに来たのはお兄ちゃん。
これはもう2年前からのお兄ちゃんの日課。
「まだ寝てる・・・・」
目覚めが極端に悪い私はもぞもぞと奥に潜りこんでくぐもった声でそう返す。
すると
「さっさと起きないとチューするぞ〜♪」
鼻歌交じりにそんなことを言いながら、勢い良く掛け布団を剥ぎ取られた。
普通の・・・・普通〜の漫画とかだったらここで「何すんのよ!!」とか「ふざけんな!!」とか反抗すんのかもしれないけど・・・

残念でした、お兄ちゃん。
私はあなたに惚れてるんですよ?

「じゃ、起きないからチューしちゃって?」
「馬鹿かお前。」
むっかー。
語尾にハートを乱舞させてまで言ったのに、あっさりキッパリそう返された。
「何でー!言い出したのはお兄ちゃんの方っしょ!!」
大げさに溜息をつくお兄ちゃんに、寝転んだまま子どもみたいに駄々をこねてみる。
「なーに言ってんだ。んな事したら俺が飛呂さんに殺される。親父にも何されるかわかんねぇしな。」
やっぱ人間、自分の体が可愛いんだよ。
お兄ちゃんはそう言いながらフッと笑った。
ちなみに飛呂っていうのはうちのお母さんの名前。
「・・・意気地なし。」
「どうとでも。」
ボソッとそう呟くと、私なんかまるで相手にしていないようにそう言ってお兄ちゃんが部屋から出て行こうとする。
けれどその間際、こっちを振り向いて苦笑する。
「ホラ、いつまでも拗ねてないでいい加減起きて来いよ、憂輝。」
あやす様に、そう言う兄の声。
私が拗ねたり怒ったりすると決まってこう言う。
単純な私はいつもこの一言で機嫌を直しちゃうんだよなぁ・・・。
いや、違う。

これは惚れた弱みだっっ!!

もう・・・好きな相手にそんな事言われるといつまでもぶすっとしてられないよ。
それを知っててやってるようなものだから・・・お兄ちゃんってズル過ぎだ。
「・・・分かったよ。すぐ起きますって。」
は〜っと盛大に溜息をついて、私はベッドから降りる。
「憂輝ちゃんいい子だねー。」
お兄ちゃんはからかうようにそう言うと、私の部屋を後にした。
・・・全く・・・・。
何で朝からこうもカッコいいんだあの人はっっ!!
そう、ズルイ!絶対ズルイって!
初めて会ったときびびっと来たもん。こんなカッコいい人がお兄ちゃんになるのかって思うと嬉しくてわくわくして・・・
多分あの時私は恋に落ちたんだと思う。
ブラコンだとか何とか言われてもかまわない。血は繋がってないわけだし。
とりあえず私は・・・

お兄ちゃん大好きーーー!!

って、叫べますっ!
だから、ちょっとでもいいから・・・
私のこと「普通の女の子」として見てほしいよー・・・。

「憂輝、学校行くぞ。」
「うん」
朝ごはんを食べ終えて、服装も仕度もきちんと整えた私に向かってお兄ちゃんが言う。
「行ってらっしゃい、眞咲君。憂輝。」
「行ってきます、飛呂さん」
「行ってきま〜す」
お母さんに見送られながら私たちは家を出る。お兄ちゃんはお母さんの事を「お母さん」とは呼ばない。もうずっと初めて会ったときから「飛呂さん」って呼んでる。
でもそれが定着しちゃってるから特に違和感は感じないんだけど。
「今日は時間に余裕があるから・・・よし。中速ってとこだな!」
お兄ちゃんは何かブツブツ言いながら、自慢の改造自転車を庭から出してくる。
「えー。速攻がいい!」
「ダメ。速攻は危ないから時間が無いときだけ。」
どちらかと言うと刺激的なものが好きな私は風を切って走る「速攻」こと、猛スピード運転の方が好きだった。
けれどそれを素早く跳ね除けられ、むぅっと顔をしかめる。
そんな私を見たお兄ちゃんはと言うと。
「さっさとしないなら置いてくぞ?」
「そ、それはヤダ!!」
まるで「お前の扱いは簡単だ」とでも言うようにそう言うと、自分だけ自転車にまたがる。
慌てて私は、その後ろにまたがった。ここが私の定位置。
「んじゃ、ちゃんと乗ってろよ。」
「分かってるよ!」
私が乗ったのを確認したお兄ちゃんはそう言うと足をペダルに乗せた。
ゆっくりと、自転車が動き始める。
けれどそれは、二人分の重みを感じさせないほど軽快な走りへと変わっていく。
朝の風を切って走る自転車。気持ちよくて大好きだー・・・。
でもそれよりも、お兄ちゃんと朝からこうやって登校できるのが幸せ・・・。
「お兄ちゃんッ」
「何?」
前を見据えたまま返事をする兄の体を、後ろからしっかりと抱きしめて。
いや、これは自転車から落ちないためなんだと自分に言い聞かせつつ・・・

「大好きだよー。」

「知ってるよー。」

「アハハ。何それ!」
私の告白をさらりと受け入れた兄の一言に、思わず私は吹き出した。
するとお兄ちゃんは僅かに笑みを含んだ声で言う。
「お前こそ、何でいきなりそんな事いうわけ?」
「ん?何となくっ」
「何だそれ。」
私の返答に呆れたようにそう言って、お兄ちゃんは自転車のペースを上げた。
こう言うとき「妹でもいい」って思ってしまう私は馬鹿なんでしょうか。
妹でもいいから、この人の傍に居たいって。
「憂輝」
不意に名前を呼ばれ、私は「何?」と問い掛ける。
すると前からは少し意地悪そうな、からかっているような口調でこう返ってくる。
「悪いけど、俺はもうちょっと大人っぽい女が好きだから」
・・・・カチン。
「何それー!!」
「痛っ!!ヤメロ!後ろから殴るのはなしだ!!」
「お兄ちゃんが悪いんだぁ!!」
ハンドルを握り、両手が塞がっているお兄ちゃんの頭を容赦なくはたく。
全く・・・私の気持ちと性格を知っててこんなこと言うんだから本当にこの人はズルイ!!
頭をはたきながら、切実にそう思った。
でも・・・
「妹だから」って断られなくてちょっと安心。
「お兄ちゃん」
学校が目前に迫ってきたところで、私は改まって口を開く。
「何?」
前からは少し機嫌の悪そうな声。
この人たまに・・・物凄くたまに子供っぽいところあるよな・・・。
ま、そんなことどうでもいいとして。

「私が大人っぽくなって後悔してもしらないよ。」

本気で。切実に私は言った。
なのに・・・・
「アハハ」
「何で笑うの!!」
お兄ちゃんは大爆笑し始める。
そして、一しきり笑い終えた後

「ま、その時はちょっとぐらいお前の事考えてやってもいいけどな。」

初めてまともな言葉をくれた。
・・・・うん。
ヤバイ。
やっぱり私・・・
「お兄ちゃん大好きー!!」
「わっ!!ヤメロ!!他の生徒が見てんだろ!!」
私は勢い良く兄に抱きついた。こんな事が出来るのも妹の特権。
悪くない。悪くないけどさぁ・・・・
やっぱり、再婚反対したほうが良かったかな・・・・?
これから先制御できそうにない自分の感情に、私は本気で悩むのだった。

...END

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