* 16歳の結婚生活。 1
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「ハル、誕生日おめでとう。今年の誕生日プレゼントとしてお前に素敵な旦那さんをあげよう」


始まりは父のこのアホらしい一言からだった。
・・・は?旦那様ですか?私はメイドか何かになるんでしょうか?しかも誕生日に?
・・・冗談も大概にしとけよクソ親父。

「ねぇ馬鹿親父、嘘つくならもうちょっとましなもんつけないわけ?しかも娘の誕生日!!あーもう・・・なんで子供は親を選べないのかなぁ・・・」
「ハルちゃん?」

誕生日ケーキを前にそうぼやく私を、母さんがぴしゃりと叱り付ける。
・・・・いや、ここは私だってちょっとぐらい怒ってもいいところかと・・・。
けれど、普段はニコニコして滅多に怒らない母だったのであえて何も言わない。

――私たちは今、家族そろってリビングにいた。理由は今日が私の誕生日だから、それを祝うべく。
戸枝ハル、今日で16歳の高校1年生です。
うちの家族構成は父・母・私の3人家族。ちなみに親二人ともかなり若くて年中ラブラブ。

えぇっと・・・・父さんが34歳で・・・お母さんが32歳!?
うわー!改めて考えるとメチャクチャ若いじゃん!

・・・って、今こんなこと考えてる場合じゃなくてっ。

「ねぇ・・・さっきのはどういう事?」
私は思いっきり顔をしかめて父さんにそう問い掛ける。
すると父さんは、事も無げにこう言った。

「早い話・・・お前はお嫁に行くってことだよ、ハル」

・・・・・はぁ?

私の頭の中、只今完全にフリーズ中。

いや・・・ちょっと待ってっ。結婚って・・・そりゃぁ法律上16歳になれば女性は結婚できるけどね?それは相手が居ればの話でしょ?
私だって彼氏ぐらい居た事あるけど・・・この年ではまだそんなこと考えた事ないし・・・・
っていうか何本気で考えてるんだ自分・・・!!

「だから今日は家族団らんで過ごせる最後の夜だなー」
「いや、ちょっと待てそこ」

いろいろ考えているうちに、父さんがサラッとこんな事を言い出したので私は素早く待ったをかける。
最後って・・・冗談にしてはかなりタチが悪くないですか・・・?
静かに混乱しつつ、必死で頭の中を整理しようとする私の横からとどめをさすように母さんが言う。

「ハルちゃん、嘘なんかじゃないわよ?」

・・・・その一言、ニッコリ笑って言われても困ります。

滅多に嘘をつかない母さんの言葉だけあって、それはかなり現実味がある。
・・・って事は・・・・
「え・・・・?」

私・・・・この歳で本当にお嫁に!?

・・・えぇっ!?まだ遊びたいのにっ・・・16で一生の人を決めるなんて無理!!途中で飽きちゃったらどうすんのさ!!
そろそろ混乱が外に出始めた私を見て、母さんが何処からともなく1枚の写真を取り出す。そしてそれをテーブルの上に置いた。
「あのね、ハルちゃん。貴方はこの方と結婚する事が決まってたのよ。まぁ今の段階では・・・婚約者ってことかしら?」

婚 約 者 ?

・・・その一言が、頭の中に深く残る。私はこの状況を理解できないままとりあえずその写真を見てみる。勝手に決められた自分の相手。正直かなり恐々にそーっと見てみたけれど・・・・

・・・・・カッコイイ・・・・・・。

悔しいけどこの写真の人・・・・メチャクチャカッコいいんですが?
髪はサラサラの茶色で、多分地毛。目はキリッとしてるけどキツくない。
そこら辺のチャラチャラした奴らとは全く違うオーラを放っている人。
何ていうか・・・・硬派?

「あら?早速気に入っちゃった?」
写真を食い入るように見つめていた私に向かって、少し茶化すように母さんが言う。
「そんなこと・・・・ないもん!!」
パッと写真から目を離すと、顔を背けながらそう否定する私。明らかに動揺しているのが分かる。
けれど、そんな私を見た父・母の目が怪しく光った事はこの時の私は知らない。

「この方は風靡ふうび 拓馬たくまさん、18歳よ。風靡財閥の1人息子さん。うちの会社の取引先の方で、良くパーティーなんかでご一緒したことあったんだけど・・・ハルちゃん覚えてない?」

えぇっと・・・風靡財閥って・・・あのメッチャお金持ちの!?
や・・・私が言うのもなんだけど・・・。
実を言うと私の父は結構大きな会社の社長をやっている。おじいちゃんから引き継いだものらしいんだけど。
そして風靡財閥はそんな父の会社の取引先の息子で・・・

・・・・ん?

って事はちょっと待てよー・・・。もしかして・・・・もしかするとこれは・・・


政略結婚?


「・・・・ヒドイ・・・・」
「え?」
ポツリとそう漏らした私の声が聞こえなかったらしく、母さんと父さんはキョトンとした顔をしている。

「とにかくハル、明日朝1番でお前を新しいマンションに連れて行くから。そこに拓馬君も居るしね。とりあえずは同棲からって事で・・・仲良くやるんだよ。あ、結婚式なんかは3ヵ月後ぐらいってことになってるから!」

・・・・・・・は?

あの・・・すいません。私、日本語が理解出来ないのですが?そのまま受け取っていいならそうするけど・・・そうなると私の結論はこうなるわよ?

私の結婚相手は、知らない間に親に決められていた。(式も)

・・・・・ごめん、限界。

「・・・ざけんな・・・・・」
「え・・・・」
「ふざけんなクソ親父ぃーーー!!!」
思いっきりそう叫ぶと、私は素早く自分の部屋に向かう。
「あ、ハルっ・・・・・!!」
後ろからそんな声が聞こえてきたけれど、完全無視。

もう知らない。

あんなの・・・・勝手に決めるなんて許せない!!私がどうして知らない男といきなり同棲しなくちゃいけないのよ!?
あーもうさっきの「カッコいい」っていうの撤回!!
・・・絶対両親の思い通りにはならないんだから・・・・!

部屋に入って思いっきりベッドに体を投げ出すと、悔しさと混乱のあまり涙が出てきた。

何が悲しくて急にこんな事・・・・

どうして現世に平安時代の姫のような想いを・・・?

・・・とりあえず、これからどうすればいいか考えよう・・・。
ベッドに横たわった私はジッと目を瞑りいろいろ思案してみる。
けれど、体っていうのは自分の意思に激しく反しているようで。
どれだけこれからの事を考えようと思っても、全くと言っていいほど考えがまとまらない。
そのうちウトウトしてきたから、最後には自分が情けなくなったほど。
でも結果的に、私は知らない間に眠ってしまっていた。


次の日の朝、私は腫れぼったい目をこすりながら1階に下りて行く。

リビングにかけられている時計の針はまだ7時過ぎを指していた。かなり早い時間だけど、本当言うとそれよりも1時間前に目を覚ましていた私。

その時間を使い改めて昨日の事をじーっくりと考えていた。

そして、ひらめいた。


「おはよう」

キッチンに立っている母さんに、何トーンか低い声をかける。本当言うとまだ腹が立っててスッキリしない。
泣いたからって気持ちが晴れるようなお子様じゃないんだから!!
誰に言うでもなく心の中でそう毒づいて、私はリビングにあるソファーに腰をおろした。
瞼が重いのは眠いせいなのか。それとも号泣したせいなのか。
まぁそんなことどうだっていい。

だって私の作戦は・・・・
「おはようハルちゃん。今日は1日中部屋から出て来てくれないかと思ってたのに。起きるの早いわね」
「だって早く起きないと出発遅れちゃうでしょ?」

――そう、マンションでも何処でも行って・・・同棲してやろうじゃない!!

私の言葉を聞いた母さんはかなり驚いたように目を丸くする。
「行ってくれる・・・のね?」
確認するようにそう言う母さんに、私は静かに頷いた。
これが望みなんでしょ?
そう語りかけるように母さんを見ながら。
なのにこの人ってば・・・・

「本当にそれでいいの?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。だってまじめな顔で問い掛けて来るんだもん。
言い出したのはそっちなのに。
「今更やっぱりやめた、とか言うわけ?」
言葉を理解した私は皮肉たっぷりでそう言い返した。
すると母さんは首を少し振り、
「幸せになってね」
なんて言いながら優しい笑顔を向けてくる。

何か・・・物凄く切ない。

そんな顔されたら私が今からやろうとしてることに気が引けてくるんだけど・・・・。
何ていうか・・・罪悪感?
何の疑いも無く、私を信用してくれる母さんを見ると本当に申し訳ない気持ちで一杯になる。

で・も。

私は・・・この婚約を破棄するために向こうに行くんだからっっ。
3ヵ月後に結婚って話、ぶち壊してやる!3ヶ月なんて時間、向こうの家に嫌われるのには十分すぎるしね。
後悔するのは勝手に話をすすめちゃった馬鹿親父よ。私だってこの年でバツ1なんかになりたくないもん。

母さんには悪いけど・・・自分の幸せぐらい自分で見つけてやるんだから!!



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