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● 私の彼氏は・・・・ --- 後日談 ●

3月。とうとう3年生の卒業式がやって来た――。

「アリサぁ〜・・・・富樫先輩凄い人気だよぉ?」
卒業式の後、黒々とした人だかりが一際目立っていた。そしてその中心にいる人物こそ私の「彼氏」こと富樫隼人先輩。
「・・・・うん・・・・。」
この光景を前日から想像して一応心構えは出来ていたはず・・・・だったけれど、実際それを目の当たりにしてみると悲しいものがある。
(私が彼女なのに・・・・。)
微妙にいじけながらそんな事を考えていると、キョロキョロと辺りを見回す先輩が目に入った。彼は背が高いため、どれだけ人だかりに囲まれていても良く分かる。
・・・・・それにしても先輩、よく卒業出来たなぁ・・・・。
と、そんな事を考えていると不意に先輩の目が私を捉える。その瞬間彼の顔が一気にニッコリと笑顔になる。
「わっ・・・。」
最近良くこの甘ったるい笑みを向けられるようになった私は、慣れない事にいつもドキドキさせられてしまう。今もとっさに向けられた笑みを直視できずパッと目を逸らしてしまった。
「アリサ、あんたって幸せもんだよねぇ。」
隣では少々妬みをも感じられるそんな声が。
「え!?」
思わず素っ頓狂な声を上げて優美ちゃんの方を見ると溜め息をつかれてしまった。
「私は岡田君が不憫だよ・・・・・。」
「・・・・い、いーんだもん!普通に接してくれるしっ!」
痛いところを突かれた私はうろたえながらそう返す。確かに岡田君には申し訳ないと思うけど・・・私には先輩と一緒に居て欲しいって言ったのは何を隠そう彼なわけだし。今になってウジウジ考えてるなんて嫌だもん。
って事で、私と岡田君は今も普通にいい友達です。
・・・それにしても。先輩を囲んでるあの女の人たち全員、第2ボタンとかいうものを狙ってるんだろうなぁ・・・・。
遠くに見える彼を目を細めて見ながらそんな事を思う。
眩しい。光景が眩しいよ先輩・・・・!私にはあの輪の中に割って入る勇気なんてありませんっ。
あーでも・・・・やっぱり第2ボタンは欲しいよー!!!
そう思っていると、何かを悟ったらしい優美ちゃんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「アリサ、富樫先輩の第2ボタン欲しいんでしょ?」
「へっ!?」
「あ、図星。」
ゆっ・・・・・優美ちゃぁーん!!!何でそう的確なトコばっかり突いて来るかなぁ!!
あたふたとしながら否定しようとしていると「行って来な」と言われ勢い良く背中を押される。
「わっ・・・わぁ!!!」
バランスを崩した私は必死で体を支えながら前方へと走る。いや・・・・正確には倒れる体についていこうとして勝手に足が動いたというか・・・・。
とにかく、気づいたら人だかりのすぐ側まで来ていた私。
先輩の周りにいる女子達は全員、ボタンを求めて必死なので私の姿なんて目に入っていないようだった。その隙に私はこの場から離れようとしたけれど――。
「アリサっ!」
そんな声とともに、輪の中心から人を飛び越えるようにして先輩が現れる。
「せっ、先輩・・・っ!」
突然出てこられても困るんですー!!!しかもいきなり出てくるから女子達の視線が全部私に注がれてるじゃないですか!!
その何十とも言う視線にうろたえていると、素早く先輩が私の耳元で呟く。
「逃げるぞ。」
「へっ?・・・・って、ま、待ってくださいー!!」
大勢の人の前で、先輩は素早く行動する。私の耳元で呟いた後、目にも止まらぬ速さで私の腕を掴んで走り始めた。またまた体制を崩しかけた私はこけないように必死でそんな彼について走る。
前方には満足そうに私達を見つめる優美ちゃんの姿があった。
そして、後方から女子達のブーイング。
・・・・・・・・先輩の馬鹿野郎・・・・!!!
心の中でそう毒づきながらも、私はしっかりと足を前に進めていた。

――「ハァ・・・・ココまで来れば大丈夫だろ。」
かなりの距離を走った私達は、先輩のそんな声とともに足を止めた。辿り着いた場所は校庭の隅っこの、あまり人目に着かない場所。
「つっ・・・・疲れた・・・・・っっ・・・。」
はぁはぁと肩で息をしながら、その場にしゃがみこんだ私を見て「根性ねぇな。」と笑う先輩。
・・・・・・・アナタが走らせたんでしょう・・・・。
まぁこんな事を言っても無駄・・・だよね。先輩だし・・・・。
そう思ったとき、私の目にはボタンの全て取れてしまった学ランが目に入った。
「あっ・・・・・・」
思わずそんな声を上げてしまう。上げてから「しまった」と口に手を当てる私はやっぱり相当馬鹿だ。
けれど、私の視線をたどった先輩は自分のすっかりはだけたその格好を見てニヤリと笑う。
「アリサ、もしかしてボタン探してんのか?」
「ちっ・・・・違います・・・!!」
そんな率直に聞かれても「ハイそうです。」なんて答えられるわけも無く、顔を真っ赤にしながら猛否定する私を尚も先輩は楽しそうに見つめて笑う。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいってー。それじゃぁ、これはいらないのか?」
言いながら自分の手を私の前に差し出す。
「?」
何だろう。そう思って彼の手の中を覗き込んでみると、黒光りするボタンが1つ目に入った。
「先輩・・・・これ・・・・」
「第2ボタン。欲しかったんだろ?全くアリサは素直じゃねぇからさ〜。死守してやったっつーのに。」
子供のようにむぅっとした顔でそう言いながら、先輩は私の手にそれを落とす。
「有難う・・・ございます・・・・。」
驚きと嬉しさが入り混じって、不思議な感覚を覚えた。呆然としながらそう言うと先輩が「おぅ。」と満足そうな笑みを浮かべる。
「まぁそれはいずれお前が付ける指輪の代わりっつーことで。それまで持っとけよ。」
「・・・は?」
指輪・・・・・ですか?
「――何ですか指輪って!?」
聞き捨てならない言葉に食いついた私に悪魔のごとく微笑んだ先輩は、
「何って、婚約指輪。」
「はいぃぃ!!?」
あぁ・・・・・頭が・・・・・頭がフリーズする!!っていうか今この瞬間、しました!!
ここここここ、婚約指輪ぁ!?
ボタンを片手に握り、放心状態で彼を見つめる。
「俺前言ったじゃねぇか。一生アリサの側に居てやるってさ。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
曖昧な記憶の糸をたどる。そして、あぁ・・・そんな事もあったな・・・・なんて思い出す。思い出したのはいいけれど、あれは本気だったんだろうか。
っていうか、その時はサラッと聞き流してたけどどさくさに紛れて私は・・・・・プロポーズされたんでしょうか!?
「あのー先輩・・・・それはもしや・・・・」
そう思っておずおずと問いかけようとすると、
「勿論、俺がアリサを嫁にもらってやるって事。」
ニッと笑って爆弾発言をされてしまった。
「・・・・・え!?」
これは嬉しいんだろうか。困るんだろうか・・・・。
なんとも言いがたい感想を胸に、私は一歩後退する。が、先輩の口からとどめの一言が。
「逃げたら許さないからな?」
「・・・・・・・ハイ・・・・・・。」
こんなプロポーズの仕方って・・・あるの?ねぇ、あるの!?っていうか脅迫だよね!!?
そんな事を思いながら一応は首を縦に振った私。こうでもしないと後でどんな倍返しを喰らうか分からない。
そうして最後に先輩は、
「まぁ俺と結婚すれば幸せになること間違いなしだけどな。」
なんて言いながら私に歩み寄ってきて、ぐっと私の体を抱き寄せる。
「せっ・・・・先輩!?」
急に何するんですか!!
そう思いながら、顔を赤らめてうろたえる。けれど先輩にギュッと抱きしめられ身動きが取れなくなる。幸いこの場が人目に付かないところだから良かったけど・・・・。
「俺が卒業したからって変な男に引っかかるなよ?」
「・・・・・・・引っかかりませんよ。」
全くこの人は・・・・人の事信用してないんだから。そう思った私はムッとして返答。
最後にボソッと
「先輩の事好きですから。」
と呟いた私の声が聞こえていたのかいなかったのか分からないけれど、先輩は微笑み、私に優しいキスを落とした。
手の中にはキラッと黒光りする第2ボタン。
そして、いつかは本当にそれが指輪になる日が来ることを願って――・・・・。


o●後書き●o

先ず初めに。
「私の彼氏は・・・」を最後まで読んでいただいた皆様、本当に有難うございます。感謝感謝です。短編とは言うものの、もの凄く亀更新なこの作品に最後まで付き合っていただき本当に有難うございました。この作品は私がネット小説を書き始めた1番最初の頃のものです。なので文章がおかしいものも多々・・・!それでも「先輩カッコいい」なんていう言葉をくださった皆様、本当に嬉しい限りですvv
出来ればこれから番外編なんかも書いて行きたいなー・・・と思っていますので、面倒くさいとは思いますがお付き合いしてくださったら嬉しいです。
今回の番外編は最終話と微妙に繋がってます。ようは・・・・プロポーズですね!高校生でませてますね!
・・・・・・なんてことはおいといて。
今までアリサは強引な先輩に振り回されているところばかりだったので、最後ぐらい甘甘にしてやる!と半ば意地になって書きました。スイマセン。
でもやっぱり先輩は強引なままです。ゴーイングマイウェイ男です。
何たって一応不良の役ですから。
不良というより、ただずれた生徒では?という突っ込みはしてやらないでくださいませ。
とにかく、楽しんでいただけたなら私は満足です!(ぇ
ここまでお付き合いいただいた方、本当に本当に本当に・・・・言葉では言い表せないほど感謝です。有難うございました!
――2005.1.19  龍
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