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● 私の彼氏は・・・・ --- お別れ ●

「黒澤さん・・・・・大丈夫?」
泣きじゃくる私の隣に腰掛けて、心配そうにそう問いかける岡田君。
私は答える事も出来ず、ただただ泣き続ける。
今私達は学校の屋上に居た。冷たい風が体をすり抜けていく。
「ふっ・・・・・・うぇっ・・・・」
嗚咽を漏らしながら俯く私の肩にそっと、手が添えられた。
「何かあったなら聞くよ?」
優しい声だった。先輩なんかとは比べ物にならないぐらいの、凄く優しい声。
「岡田君・・・・・」
ぼやける視界で彼を見つめると、その表情は真剣で。この人になら頼ってもいいんじゃないか・・・・そんな感覚に陥った。
そして、そんな想いは形となり私の口からあふれ出る。今まで溜め込んでいたもの、心にしまっていたものが一気に。
「・・・・・・・・そっか。」
私の話を聞き終えた岡田君は静かにそれだけ言った。話を終えた私はというと、幾分か落ち着きを取り戻し赤くなった目をハンカチでそっと押さえる。
「黒澤さんは・・・富樫先輩の事好きなの?」
不意に、そんな問いを投げかけられた。
「へっ?」
思わず間抜けな返事をしてしまう。不意打ちだよそんな質問。
そう思いながらも、視点を空に移して質問の答えを捜す。
「好き」?「嫌い」?
そりゃぁ・・・・この2択なら好きのほうに分類されるのかもしれないけど。でもそれが恋愛感情なのかどうかは分からない。無理矢理付き合わされて、気づいたら彼女で。可笑しな話だけど、事が急展開過ぎて今までうやむやにしてきた肝心な気持ち。今になってその答えを聞かれても返答に困ると言うか・・・・・。
うーん、と考え込んでいる私に岡田君が苦笑を漏らす。
「分かんないの?」
「・・・・・・・ハイ・・・・・。」
恥ずかしながら、正直にそう答える。私の返事を聞いた岡田君は一層その表情に苦笑を浮かべて。
「やっぱり面白いね、黒澤さん。」
そう言いながら今度はクスクスと笑い始める。恥ずかしいやら情けないやらで、少しふてくされたように眉をしかめた私に気づき彼は不意に真剣な表情になる。
「でも――俺、好きだよ。黒澤さんのそう言うとこ。」
「えっ・・・・・・・」
いきなりの告白に、私は目を一杯に見開く。
好き?すすすすす、好き!!?
「えぇ!?」
「あ、凄い素直な反応。」
驚愕の声を上げた私に少し脱力気味な岡田君。
「だ、だって!!」
赤面しつつ、そう反論すると岡田君が微笑んだ。
「でもさぁ・・・多分黒澤さんは俺の事なんて目に入ってなかっただろ?いつだって富樫先輩の事ばっかりで。」
「そっ・・・・そりゃぁ・・・・先輩いろいろ問題起こすし心配で・・・。」
「でもそれって一応は"気になる"って事じゃないの?だったらそれはそれでいいんじゃない?」
「・・・・・・・はぁ・・・・。」
なんだか良く分からないけれど、そう納得させられた私は一応返事をしておく。そんな私にもう1度だけ微笑みかけて岡田君は言った。
「悔しいけどさ・・・・・・・やっぱ黒澤さんには富樫先輩といてもらいたいよ。仮に俺と居たとしても、黒澤さん先輩と居る時みたいに笑ってくれなさそうだし。」
「そっ、そんな事無いよ!!」
この人はどさくさに紛れて何をサラッと言ってるんだ。そう思いながら真剣に彼の言葉を否定する私。
そして、岡田君に元気付けられた私は屋上を後にする。
自分の気持ちが少しだけ見えたような気がして。だから私は――先輩の元へと向かう。向こうの気持ちがどうであれ、今の私の素直な気持ちを伝えよう。そう思ったから。
これが最後になるのかなぁ・・・・・・・。
そう思うとまた涙が零れそうになったけど、こういう感情があるってことは私は先輩の事――好き・・・・なのかもしれない。
そう思って歩いていると、
「アリサ?」
背後から声を掛けられた。その声を聞いた瞬間、どうしようもない思いで私の胸は一杯になる。ゆっくりと振り返り、あどけない笑みを浮かべている彼を見ながら思わず声が震えた。
「先輩――・・・・・」
けれど先輩は、そんな私の様子に気づくこともなくいつもの調子で話し始める。
「どうしたお前?ここ3年の階に上がる階段じゃねぇか。あ、もしかして俺に会いに来たとか?」
「そうです。」
「・・・・あ?」
いつもは否定するはずなのに、今日の予想外の返答に困ったらしい先輩は少しだけ眉をしかめる。そして再度、今度は真剣な顔で「どうした?」と問いかけてくる。
私は、これで彼との会話が最後だろうと覚悟しつつ口を開いた。
「私、先輩の事好きになったかもしれません。」
「・・・は?」
真剣な表情でそう言った私に、先輩は呆けたような声を出す。
「え?お前何言って――・・・・・」
「でも先輩は私の事なんかただの遊び相手にしか思ってないんでしょ?」
口を開きかけた彼の言葉を、勢い良く遮った。
私の言葉を聞いた先輩はジッと私を見つめ、押し黙る。
沈黙が流れた。
そして、最初に口を開いたのは私。
「さっき・・・見ました。外で女の人とキス・・・してましたよね。私、自分が遊び相手の1人にしか過ぎないって分かってたけど・・・・でもやっぱり・・・・悲しかった。」
声が掠れるのを感じながら、ゆっくりとそう言う。先輩の表情が驚きに変わったのをかろうじて認識しながら。それ以外の事なんて分からない。周りが見えない――。
「でもやっぱり・・・・こんな悲しい思いするぐらいなら先輩とは一緒に居たくない。我侭だけど、やっぱり私だけを見て欲しかったよ――・・・・。」
そこまで言うと涙がぶわっと溢れた。胸が痛い。さっきのキスの光景なんかよりも、もっともっと痛い―・・・・。
「アリサ・・・・・・。」
むせび泣く私を前にして、先輩は呆然とそう呼びかける。そしてゆっくりこちらに手を伸ばそうとしたけれど。
「やっ・・・・・。」
さっ、とその手を交わした。優しくしないで欲しかったから。もう別れるって言うのに、そんな事したら「好き」っていう気持ちが抑えられなくなるでしょ・・・・?
「先輩が私の事遊び相手の一人としか思って無くても・・・・私は先輩の事が好きです。」
最後にそれだけ言い残すと、私はさっと踵を返す。そして先輩に背を向け、そのままその場から走り去った。
涙が頬を伝う。通り過ぎる人全員が不思議そうに自分の方を見るのも気にも留めず。
何処に行けばいいのかも分からないのに。それでも私はただ走っていた。
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