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● 私の彼氏は・・・・ --- 「・・・・・誰・・・?」 ●

「ちょっと・・・・・・アリサ、どうしたのその目!?」
教室に戻ってきた私を見た優美ちゃんは、そう驚愕の声を上げた。
「真っ赤だよ・・・・・?」
ハンカチを目に当てている私にゆっくりと近づきながら、覗き込むようにしてそう言う。
「ん・・・・ごめん優美ちゃん・・・。詳しくはまたメールするから・・・・今日はもう帰るね。先生に早退するって言っといて・・・。」
「えっ?ちょっ・・・アリサぁ!?」
呼びかけにも応じず、ノロノロと帰り支度をする私を呆然と見つめながら優美ちゃんは言葉を失くす。そして渋々「分かった・・・。」と一言。
「ごめんね・・・・。」
最後にもう1度だけそう言って、私は教室を後にした。すれ違う人に泣きはらした目を見られないよう、俯きながら歩く。
もう・・・・・なんか一気に疲れた。今頃になって自分の気持ちに気づくなんて馬鹿みたい・・・・。
滲む視界で必死に床を睨み付けながら、1つだけ明確になった想いを胸に家路に着く。
――私・・・・・・・先輩の事好きなんだ・・・・。
今になってやっと気づいた自分の気持ちは漠然としていて、それでいて確かなものだった。人の気持ちって分からない。特に自分のものは。
家に戻った私は自分の部屋に直行した。親は共働きなので居るはずも無く、1人になりたい今はとても有難かった。
「先輩・・・・・・。」
部屋の床にぺたん、と座り込みながら思わず口から漏れる言葉。
自分から別れを告げたくせに。ちゃんと気持ちの整理しようと思ってたのに。
やっぱり・・・・・・・・ダメだ・・・・。
今思えば入学当初からいつも隣には先輩が居て、何かにつけて騒ぎを起こしてくれた。そんな先輩にいつも冷や冷やさせられていた私だけど、楽しい事もたくさんあって。今までとは全く別の世界を彼は見せてくれて。
そして、いつも私の隣で笑っていてくれた。
なのに・・・・・・もう、自分の隣には少し人を小馬鹿にしたような笑いをする彼が居ない。
寂しい・・・・・・・寂しいよ、先輩・・・・・・。
こんなに呆気なく終わるなんて。楽しかったあの時は思いもしなかっよ――・・・。
1人だけの空間に、自分の情けない泣き声が響く。何も考えられない。悲しい、その気持ちだけを胸にひたすら泣き続ける自分。
もしもあの時、最後に先輩と話したとき、素直に「私と一緒に居て」って言えたらどんな風になってたのかな・・・。もしかしたら状況だって変わってたかもしれないのに。
もっと素直になれてたら――・・・・・。
そんな事を考えているうちにまぶたが重くなるのを感じる。そして私は、抵抗することなくそれに従った。

――どれぐらい眠ったのだろう。
学校から帰ってきたときには光が差し込んでいた窓からも、静かに月光が差し込むばかりだった。そして今私の傍らには、仕事から帰って来たお母さんの姿。
「アリサ・・・・アリサっ!!あんたいつまで寝てるの!!」
お母さんはそう言いながら私の顔をぺチン、とはたく。
「ったぁ〜・・・・!!」
何とも寝覚めの悪い起こし方だ。そう思いながらゆっくりと上体を起こす。どうやら相当泣いたらしく、視界が霞み瞼が重い。
目をゴシゴシとこする私を見て、お母さんは「どうしたのその目。」と不思議そうに問いかける。けれど数秒考え
「寝すぎよ。」
この一言で終わらされたもんだから、私は思わず気が抜けるのを感じる。
・・・・・・普通もうちょっとましな考えを思いつくはずだろう。
まぁ・・・お母さんも天然なところがあるから仕方が無いと言えば仕方ないけど。
私はんーっ、と1つ伸びをする。視界だけじゃなくて、頭まであまり優れない。
・・・・・やっぱり寝すぎかな。
そんな事を思っていると、お母さんは思い出した様に口を開く。
「あ、そうそう!あんたにお客さんが来てるんだったわ!!」
「・・・・・は?」
それ先に言おうよ。
非難の目を向けるとお母さんは誤魔化したような笑みを浮かべながら
「しかも男の子よ。背が高くてカッコよくて真面目そうで。なかなか好青年だわ♪まさか彼氏・・・なんてことないわよね。」
そう言った。そして用件を伝えるだけ伝えていそいそと部屋から出て行く。
「・・・・・・誰・・・・?」
今は誰にも会いたくないのに。しかも相手男って・・・・知らない。心当たりなんてないもん。
ただ1人、頭に浮かんだのは岡田君の姿だった。彼ならお母さんが言った人物像に当てはまる。
でも・・・・ウチの家なんて知らないはずだし。
・・・・・・・誰だろう。
私はのろのろとその場に立ち上がり、玄関に出る前に鏡で自分の顔をチェックする。そこには思ったとおり酷い顔の自分が映っていた。
そりゃぁまぁ・・・・・あれだけ泣いたらしょうがないよね。
自分に必死でそう言い聞かせ、玄関に向かう。
「どちら様ですかー・・・」
言いながら、そこに立っている人物を見て目をぱちぱちっとする。
――・・・・誰?
自分の知らない人物がそこに居た。
「・・・・・・よぉ。」
その人物は少しだけ恥ずかしそうにそう言いながら私をジッと見る。黒髪のスポーツ刈りに、少しキツイ印象を受ける目を持ったその人物。
「・・・・・どなた・・・・・ですか・・・・?」
思わず思っていたことが口に出てしまった。
分からない・・・誰なんだこの好青年は・・・・・。
そう思いながら首をひねっていると、グイっと腕を捕まれる。
「へっ?きゃぁ・・・・!?」
よろっ、と体制を崩した私を、目の前の人物が素早く受け止める。その瞬間、私の胸の中には何か懐かしい想いが込み上げてきた。
思わず顔を上げると
「外出て話しよう。」
と、その人物に言われた。何がなんだか分からないまま、取りあえずコクリと頷いて外に出る。
胸の奥で懐かしいような、くすぐったいような想いを感じながら。
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