第1話 誰ですか。
 全身の気だるさを感じながら、私は薄く目を開ける。
 先ず目に入ったのは白一色で統一された世界。
 天井も、壁も。何もかも白かった。

「やっと目が覚めたかい?」

 不意に頭上からはそんな声が降って来た。

「誰・・・・・?」

 ゆっくりと首を動して声の主を探すと、白衣を着て眼鏡をかけたいかにも「医者」って感じの人が立っている。
「おはよう、麻生那智あそうなちさん」
「・・・・おはようございます」
 ワケが分からないけれど、一応そう挨拶する私。っていうかこの人・・・何で私の名前知ってるんだろう?

 ・・・・・それより全身のこの気だるさは・・・?この真っ白な空間は・・・?

「ここは病院だよ」

 ・・・・病院・・・・?
 まるで私の心中を読み取ったかのように、白衣を着た人、多分医師せんせいはそう言った。
「何で・・・・・病院に・・・?」
 頭が痛い。何も・・・・思い出せない。
 ギュッと自分の胸倉辺りを掴んだ私を見て、医師は優しく話しかける。
「君はね、1週間前に交通事故に遭ったんだよ。幸いこれと言って大した怪我は無かったんだけど今までずっと眠り続けて居たんだよ」
「事故・・・・」

 何がなんだか分からないまま、私はポツリとそう呟く。
 そんな事あったっけ?でも言われてみると確かに・・・1週間前の記憶がない。

 ジーっと何も無いところを睨んで何かを思い出そうとしている私を他所に、先生は
「あ、そうだ。君の意識が戻った事を身内の方に報告しないとね!」
 何て言いながらパタパタと走って行った。
 院内を走るのは危険ですのでお止めください。

 ・・・・・・じゃなくて!!!

じっ、事故!?私が!?っていうかそれで大した怪我も無いのに1週間眠り続けてたことにビックリなんだけど!?

 1人病室でそんな事を考えて頭を抱え込むこと数分後。
「――・・・・那智っ・・・!!!」

「・・・・へっ?」

 急に名前を呼ばれ、間抜けな声を上げながら顔を上げる私。
 そこには20代前半ぐらいの男の人が息を切らしながら立っていて―・・・

「麻生さん、お身内の方来られましたよ」

 その後ろにはニコニコーっと笑うさっきの医師。

「那智・・・・大丈夫か?何処も何ともなってないか!?」
 さっき私の名前を呼んだ男の人は私に近寄ってきて心配そうに両手をギュッと握る。
「ハァ・・・・」
 またまた間抜けな返事をしながら、私はその人を見つめた。
 整った顔。睨まれたらメチャクチャ怖そうな目。すっと筋の通った鼻。
 いわゆる2枚目、という人なんだろうか、この人は。
 でも・・・・・・

「っていうか・・・・誰ですか?」

 私は貴方の事知りません。

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