第1話 誰ですか。―2
「っていうか・・・・誰ですか?」
 私がそう言った瞬間、辺りはシーン・・・と凍りついたように静かになる。
「だっ・・・・誰って麻生さん・・・。山本さんは君の保護者で―・・・」
 ポカン、と目の前の人物を見つめている私に慌てたようにそう説明する医師せんせい
「保護者ぁ?」
 当の私はと言うと、眉をしかめて信じられないと言った風にそう言った。
「私・・・・こんな人知りませんけど」
 その瞬間、また当たりは静まり返る。
「せっ、先生・・・・。もしかして彼女・・・・」
 1人の看護士さんがそわそわしながら医師に何か耳打ちする。
 医師は「うーん・・・」と唸りとも頷きとも判断できない声を上げる。
 そして突然、私にこんな質問をしてきた。
「麻生さん、君自分の名前は分かるかな?誕生日は?」
 ・・・・この人私の事馬鹿にしてんの?
 そんな事を思いながらムッとして私は答える。
「私の名前は麻生那智、17歳のバリバリ現役高校生です。誕生日は11月11日、ポッキーの日!」
 ハイ、最後は余計でしたね。
 でもっ!!こんな覚え易い誕生日忘れるわけ無いでしょ?ましてや自分の名前なんて。
「ふむ・・・・・・」
 淡々とそう答えた私を見てまた医師は唸る。
 だから何なんですか。っていうか・・・私さっきから目の前のこの人に手握られたまんまなんだけど?
「じゃぁ麻生さん、この人が誰か分かるかな?」
 いつになったら離してくれるのかなー。
 そんな事を考えながら握られている手をジッと見ていると、今度はそんな問いかけをされた。
「いえ、だから・・・・・こんな人知りません」
 私はさっきと同じ調子でキッパリとそう答える。
「そうですか」
 医師は満足そうに頷いてそう一言。そして・・・・

「麻生さん、君は記憶喪失です」

「・・・記憶喪失?」

「えぇ」

「私が?」

「君以外に誰が?」

「・・・・・・・・・」

 シーン。
 ・・・・マジですか!!

「せっ、医師!!私どうなるんですか!?っていうか何処がどう記憶喪失なんでしょう!?」
 パニックと焦りが入り混じり、無我夢中で私はそう問いかける。
「えーっと・・・・簡単に言うと・・・記憶喪失、と言っても喪失しているのは1部だけ」
 そう言いながら医師は未だに私の手を握ったままの人物に目をやる。
「君の保護者代わりで、同棲相手の山本さんの記憶だけ綺麗サッパリなくなってるんだよ」

 ・・・・同棲相手!?
「覚えてる?」
 医師の言葉に私は必死になって首を横に振る。
 ・・・・知らない。こんな人知らないっ・・・・・!!
「多分事故のショックから来ているんだろうね・・・。事故のとき君を庇ったのは山本さんらしいですから」
「え・・・・?」
 医師の言葉に思わず私は目の前の人物を見る。
 この人が・・・・私の事かばってくれたの・・・・?
「君に大きな怪我が無いのはそのおかげだよ」
 医師はニッコリ笑って「良かった良かった」なんて言いながら頷く。
 イヤ待て。何にも良くない!!
「じゃぁ・・・私の記憶はいつになったら戻るんですか!?」
「・・・分からない」
 ・・・待って・・・・・マジで待って。
「とりあえず頭以外は異常がないので2日後には退院できますね」
 ・・・頭以外はって言うな。
 まるで私が馬鹿みたいじゃん!
 あれ・・・?でも・・・・退院って事は・・・・
「もしかして私、この人のところに引き取られるんですか?」
 目の前の「山本」という人物を指差しながらそう言う私。頼むから誰か否定してくれ。

「勿論。元々君は山本さんと一緒に住んでいたんだからね」

 ・・・・・やーめーてー!!!!
「そー言うことだから」
 何がそう言うことだっ!!
 今まで静かだった山本、という人物は一言そう言うと溜め息をついて立ち上がる。
「2日後に迎えに来るからな、那智」
 そして、一言捨て台詞のようにそう言い残して看護士さんたちに軽く会釈して病室から出て行ってしまった。
「ちょっと・・・・・・待ってよ!!知らない男に引き取られるって・・・」
 後に残された私は呆然とそう呟く。
「大丈夫、そう思うのも記憶が戻るまでだよ。それに・・・山本さんはきっといい人だよ。事故の時必死で君を連れてきたんだからね」
 医師はニッコリと笑いながらまるで私を落ち着かせるようにそう言った。
「・・・ハァ・・・」
 やっぱりとりあえず頷く私。っていうかもう頷くしかないでしょ・・・。
「私・・・・これからどうなるんだろう・・・?」
 誰に問うでもなく、真っ白な天井を見つめてそう呟いた私だった。

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