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● 私の彼氏は・・・・ --- 1 出会いは唐突に ●

それはある晴れた、めちゃくちゃ喧嘩日和の日―・・・・・。

「あークソッ。何でこんな日に体育館に詰め込まれてなきゃいけねぇんだよ!!」
俺は吐き捨てるようにそう言った。しかも隣には気持ち悪いほどぴっとりくっついてきやがる先公。
「何言ってるんだ富樫!今日は入学式じゃないか。先輩として新入生を迎え入れてやろうという気はないのか!?」
「ない。」
即答だった。
「・・・。先生は悲しいよ。」
勝手に悲しんどけバーコードハゲ。あ、でもこの事を前に言ったら「お前のせいで苦労しすぎて次から次に抜けてくんだ」とかなんとか言われたっけ?
毛の耐性力を俺のせいにすんなっつーの。
「はぁー。」
あーかったりぃ。
俺は新入生とやらの親が居る前で、イスに座りながら思いっきり伸びをした。校長が無駄話をしてる間みんなジッとしてその話を聞いてるから体育館には俺の声が妙に響く。
瞬間、親の視線が俺に集まる。
「・・・富樫・・・頼むからおとなしくしといてくれ・・・。」
「うぃっす。」
「返事は”はい”だろ!」
あーイチイチウルセェな。つーか今1番うるさいのアンタだろ。
「あーあ。面倒くさ。」
俺はそう呟いて目を閉じた。体育館の窓からさして来る日光が丁度良い具合に当たって気持ちいい。こりゃぁもう昼ねするしかないだろ。
俺が目を閉じると先公は溜息をついた。が、それからは特に何も言わなかった。多分俺が起きてるより寝た方が静かでいいとか思ったんだろう。
チッ・・・。どいつもこいつも人のこと問題児扱いしやがって・・・・。

――「起きろー隼人ー。」
「うわっ!!?」
耳元で聞こえる声と気色悪い吐息で俺は飛び起きる。
んのヤロォー・・・この俺にふざけた真似しやがんのは何処のどいつだ!?
俺は素早くゲラゲラと聞こえてくる笑い声の方を振り返る。
「テメー・・・・」
そして、思わず拳を握り締める。そんな俺を見てそいつ等は手を上げる。
「おーっと待ったぁ。誰も居なくなった体育館で一人取り残されてる隼人君を起こしてあげたのにそれはないんじゃないかなぁ?」
・・・何?
俺はゆっくりと辺りを見回す。
無い。何も無い。
つーか・・・
「誰か起こせよ!?」
叫んだ。思いっきり叫んだ。この俺の一言にまたさっきの奴らは大爆笑。
「アハハハハ!!馬っ鹿じゃねぇの!?もうとっくにみんな教室戻ったっつーの!!」
コイツ――俺のダチ、大野裕也・・・絶対後で絞めてやる。
「にしても・・・体育館の中央で一人気持ちよさそうに寝てる隼人の顔・・・アハハ!!間抜け面!!」
「・・・ざけんなぁ!!せめて先公起こせや!?」
もう一人のダチ、三沢拓斗が腹を抱えながら笑ってやがる。そんな面白いもんだったのか、俺は。
思わずさっきまで座っていた(寝てた)イスを蹴る。
「隼人君、イスに罪はないから当たっちゃカワイソウだよー。」
「つーか誰だお前。」
しれっとしてそう言うと女口調で「冷たぁい」とかなんとか言われた。気色悪いことこの上なし。
朝から入学式だのなんだので機嫌が悪かった俺。でもココに来てそれも一気に急降下。
チッと舌打ちして眉間にしわを寄せると馬鹿二人組みがニッと笑った。
「そーそー。今回の新入生・・・可愛い子いっぱいいたぜ?」
「俺的に入学式で緊張してる女の子達がツボなんだよねぇ。」
「・・・テメーら変な趣味のマニアか。」
ボソッとそう言うと二人に同時に叩かれた。
「イテェよ!!」
だから俺は倍返し。みぞおち目掛けて思いっきり蹴り入れてやった。
やられたら倍にしてやり返すのが俺の鉄則だ。
「とにかくさー、隼人も行こうぜ?」
「は?」
何処にだよ?つーか回復早いなお前ら。
そんな事を思っていると、急に腕をつかまれる。
「「可愛い女の子探し〜♪」」
・・・・こいつ等のテンションには付いていけん・・・・。

体育館から外に出ると、そこには下校途中の生徒がかなり居た。今思ったけど・・・俺は本当にいつまで寝てたんだ。いや、それ以前に誰か起こせ。
「あ、隼人ー!」
下校途中の生徒に紛れている新入生をハンターの如く探す三沢と大野。二人を遠目に見ていると、不意にそんな声がかかる。
「おぉ、優じゃん。」
振り向くと同じクラスの女子、大塚優が立っていた。優はニッコリと極上の笑みを浮かべる。
「アンタ何でHRの時居なかったの?」
まるでその理由を知っているかのように問いかけてきやがる。俺の表情はつい苦いものになった。
「いや・・・・ちょっと新入生の女の子達に捕まってて。」
「嘘つけ。新入生はあの後すぐ退場したよ。」
「・・・・寝てたんだよ。」
ボソリとそう言うと、優は三沢たちに負けず劣らずの大爆笑。
「アンタやっぱ馬鹿じゃ〜ん!!」
馬鹿じゃ〜んって・・・・。
ムカッと来たけど女には手を挙げない。
「あーハイハイ。どーせ馬鹿だよ。」
諦めたようにそう言って俺は優に背を向ける。・・・と、その瞬間。胸の辺りに小さな衝撃を覚える。
「・・・?」
眉をひそめ衝撃の原因を探ろうと顔を下に向けると・・・・
「あ」
思わず声が漏れた。そこには微妙に涙目でこっちを見上げてくる女の子。
「す・・・すいませんっ・・・・!」
彼女はそう言うと逃げるように少し離れた場所にいる友達のところへ駆けて行った。
「あーあ。怖がらせちゃったー。」
背後からは優の楽しそうな声が聞こえてくる。
「っるせぇ。」
俺は優の顔を見ずにそう言った。いや、正確には”見れなかった”。
俺の目は今、さっきの女のこの方に向いているから。
そこへ丁度馬鹿二人組みがやって来る。
「あーあ。みんな可愛いけど特に良い!って言う子は居なかったなー。」
これは三沢。
「あんた等そんな事ばっかりやって良く飽きないねぇ。」
そう言って優が笑った。
「俺はもう名前とクラスまで教えてもらったもんね〜♪」
大野は一人誇らしげに言ってヒラヒラと手を振っている。
「マジかよ!?お前手早ぇよ!なぁ隼人ー・・・・って、アレ?」
三沢の声が背後から聞こえてくる。でも内容が良く頭に入ってこない。ヤバイ。目があの子から離れない。
「アレアレ?もしかしてこれは・・・・」
「んー。もしかしなくてもぉ・・・・・」
「「「一目ぼれ??」」」

それは良く晴れた喧嘩日和(入学式)の日。
俺は生まれて初めて「一目ぼれ」をした。そいつの名前は「黒澤アリサ」。
以来俺を楽しませてくれる、結構ドジな自慢の彼女。
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