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● 私の彼氏は・・・・ --- 2 先輩か、さん付けか ●

突然ですが私、黒澤アリサは困っています。高校の入学式の日にぶつかってしまった怖くて明らかに”不良”の先輩に目を付けられてしまいました。
初めて話しかけられた一言目がこれです。
『君、俺と付き合わない?』
・・・目が点になりました。ハッキリ言って、退きました。泣きそうでした。
「・・・・はい・・・?」
ワケが分からずそう言った私の言葉を向こうの方は「はい」、つまり、OKだと勘違いしたらしく・・・
「じゃーよろしくな、アリサ♪」
・・・早いって!!いえ、それ以前にどうして私の名前を・・・・!?
私が何も言えずに立っていると、その人は言いました。
「あー、俺は3年の富樫隼人。呼び方は・・・・名前でいいぜ。」
・・・・困った。素で困りました。
なっ・・・名前!?と言うか私、まだOKしてませんよ!?
でもそんなこと言うと命がなくなりそうだったのであえて何も言いませんでした。
「あ、俺時間ないからもう行くわ。また今度ゆっくり話そうぜ、アリサ」
私が黙って突っ立っていると、その人は爽やかに(あえてそう表現します)笑って去っていきました。耳に沢山付いているピアスが綺麗に揺れました。
・・・って、見とれてる場合じゃなくて!!
「・・・・どーしよ・・・・!?」
その場に残された私の思考回路は停止しました。

「どーしたのアリサ?」
学校の帰り道、明らかに沈んでいる私に親友の優美ちゃんがそう声をかけてくれました。
「うん・・・ちょっと・・・」
私にはそう答えるしかできませんでした。溜息をつくと、更に気分が沈みました。そんな私を見かねて優美ちゃんは喝を入れてくれました。
「あーもーウジウジしない!何があったのか話してよ〜!」
ばーん、と思いっきり背中を叩かれました。痛い・・・・・。でもそのおかげで、少しだけ何かが吹っ切れました。
この際話したほうが楽かもしれません。
「んー・・・今日ねぇ・・・」
私がポツリポツリと、今日あった事を話すと優美ちゃんが黄色い悲鳴を上げました。
「えー!?何それ!?何で私の知らない間にそんなことになってるの!?」
「それはこっちが聞きたいよ。」
思わずそんな言葉が漏れました。でも1度上がってしまった優美ちゃんのテンションはなかなか下がりません。
「え〜!?アリサ知ってる?富樫先輩って不良だけどメチャクチャ人気あるんだよ!?1年の間でももうかなり噂になってんだからね!?」
「嘘!?」
またまた、本音が漏れました。
そりゃぁちょっとはカッコいいと思いますが・・・・アレはどう見たって”不良”でかなり近寄りがたい気がします。
「やっぱアンタは知らなかったか・・・。アリサって興味あること以外はあんまり周り意識しないもんね・・・。」
「うっ・・・・」
図星をつかれた私はどうすればいいんでしょうか。優美ちゃんは完全に呆れちゃってるし・・・。
「あ、そうそう!!問題がもう1つあるんだけど・・・」
思い出したようにそういう私にまたまた優美ちゃんが好奇心の目を向けてきます。本当はこの場の空気をどうにかしたくて持ち出しただけなのですが・・・。
「えぇっと・・・・呼び方にね、困ってるんだけど・・・」
おずおずとそういう私に対し優美ちゃんが眉をひそめます。
「どう言う事?」
「何か・・・名前でいいって言われたんだけどそれにしてもどう呼べばいいか分からなくて・・・。」
”富樫さん”?はたまた”隼人君”orさん付け?
どっ・・・どれも嫌ですっ・・・・・!!
「あー、そんなの手っ取り早く”先輩”でいいんじゃないの?」
明らかに「何だそんなことか」的な顔で優美ちゃんがそう言いました。
「アリサはウブだねぇ・・・。」
優美ちゃんのニヤッとした笑いがとてつもなく不気味です。
その後もいろんな話しをして、私は優美ちゃんと別れました。
「富樫・・・先輩・・・」
一人になったとき、試しにそう口に出してみました。言ってみるとそれはとても普通でこれが1番自然だと思えました。
名前で呼べと言われても無理です。私は絶対この呼び方を貫きますっ。
私はそう決心して一人でグッと拳を握りました。
するとその時。
「あ、アリサじゃん!!」
後ろからそんな声が聞こえてきて、私の体は思わずビクッと反応しました。
この声はまさか・・・・
「せっ・・・先輩・・・」
そこにはやっぱりあの人が居ました。自転車に乗って何だか猛スピードでこっちに来ます。
・・・っていうか危ないですって!!
先輩は私と衝突する直前でキィィッと急ブレーキをかけました。
「あー危ねー。」
・・・貴方絶対危機感ないですよね・・・?
私が放心状態で先輩を見つめていると、それに気づいた先輩がニッと笑いました。
「お前さっき俺のこと”先輩”って言っただろ?」
「えっ!?」
聞こえてたんですか!?結構な距離離れてたのに!?
・・・・地獄耳だっ・・・・!!
「名前でいいつったのに。」
「すっ・・・すいませんっ・・・・」
思わずそう言って頭を下げると、不意に頭に大きな手が置かれました。
少し驚いて顔を上げると、目に入ってきたのは楽しそうに笑う先輩の姿でした。
「別に謝んなくていいって。つーか俺そんなに怖い?」
「怖いです。」
ハッ。
言ってから気づきました。私は何て正直な人間なんでしょう・・・・。
これぞ正に「正直者は馬鹿を見る」!?
あわわわ・・・・なんで勝手に動くんだこの口はぁー!!
でも先輩は、おろおろしている私を見て大爆笑し始めました。
「素で怖いって言われたの初めてなんだけどっ・・・・・」
笑いながら話すせいで先輩の声は途切れ途切れです。
「ご・・・ゴメンナサイ・・・・;;」
この時の私にはただ謝るしかできませんでした。すると先輩は「面白いなぁアリサは」何て言いながら自転車のペダルに足を乗せました。
「送ってやるよ。家何処?」
「へっ?」
急にそんな事を言われ、ポカンとしている私を先輩が急かします。
「俺短気だから早くしろ。」
「はっ・・・ハイっ・・・・!!」
これは脅しじゃないか?そんな事を思いつつ、私は先輩の後ろに乗りました。落ちないように先輩のダラしなく着ている学ランをギュッと掴みました。
顔が急激に赤くなっていくのが分かって、この日ほど後ろに乗ってて良かったと思ったことはありません。
「なぁアリサ〜」
「はい?」
先輩の自転車に乗せられて数分後、不意にそう声をかけられます。何だろう、と思っていると
「呼び方・・・別に先輩でいいから。」
そう言って先輩は自転車のスピードを少し上げました。
「・・・はい。」
もしかして照れてるんでしょうか・・・?そんな事を思いながら私は静かに返事をしました。
私はこの人のこと、あんまり嫌いじゃないかもしれません。
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