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● 私の彼氏は・・・ --- ついつい世話焼き ●

ポカポカと気持ちのいい昼休み、私は先輩の姿を見つけた。
しかもその姿、最悪。
「あれって富樫先輩だよね?」
「う・・・うん・・・・。」
気持ちいいいなー、なんて思いながら教室の窓を開けて外を見ると丁度タバコを吸っている先輩の姿が目に入った。
「見なかった事にしようよ・・・。」
「そだね。」
ぎこちなくそう言って先輩から顔をそむける私に悪戯っぽい笑みを向けて親友の優美ちゃんがそう言った。でも。
「おーい黒澤!」
背後から名前を呼ばれて私は振り返る。
「・・・何ですか?」
見るとそこには、生徒指導の先生が立っていた。
何なんでしょう。私は何かやらかしましたか!?先輩にかかわってる以外特にこれといって悪い事はしてないと思いますがっ・・・・!
生徒指導の先生は教室に入ってくるとそのまま一直線に私のほうに歩いてくる。しかも顔が怖い。(元からだけど)
「ねぇアリサ、あんた何かしたの?」
近づいてくる先生には聞こえないように小声でそう言う優美ちゃんに私はぶんぶんと頭を振った。
「そーだよね。」
アリサが悪い事できるわけないか、なんて言いながら優美ちゃんはまた窓の外を見る。
何なのその言い方は・・・;;丸っきり私が小心者みたいじゃん・・・。
そんな事を思いながら溜息をついたとき、とうとう目の前まで先生がやって来た。
なっ・・・何を言われるんだろうか・・・・。
「黒澤、富樫が何処にいるか知らないか?」
・・・・・・・ふぁい?
「いやぁ、最近あいつはお前にちょっかいを出してるみたいだからお前なら居場所が分かると思ったんだがなぁ。」
ハハハ、と豪快に笑いながら先生はそう言った。何が来るんだろうとかなり力んでいた私は一気に脱力する。
何だそんなことか・・・・・・って、やばいじゃん!
「し、知りませんよー。」
愛想笑いを浮かべて私は答える。
ヤバイよ先輩・・・・今先生が貴方の事を見つけたら貴方は確実に何らかの処分が下りますよ;;
「そうかぁ・・・・。」
先生は微妙に肩を落とす。
「最近また服装が乱れてきたからビシッと注意しておこうと思ったんだがな・・・。」
・・・はぁ。何とか誤魔化せた・・・・・。
「にしても今日はいい天気だなー。」
・・・・・え!?
私が気を抜いた瞬間、まるで何かを見透かしているかのようにそう言いながら窓に近寄ろうとする先生。ダメだって!今窓の外を見たら確実に先輩が・・・・・!!
「せ、先生!」
「何だ?」
・・・ヤバイ。話題もないのに呼び止めてしまった。
「い、いやその・・・・最近は女子のスカートも短くて困りますよねっ;;?」
しどろもどろになりながらも、へにゃっと笑いながらそう言った。そんな私を先生はポカン、とした顔で見つめる。
・・・・あぁ・・・・今完璧に「何だコイツ」って思われて・・・・
「そうか・・・お前も分かってくれるのか黒澤!」
・・・る?
「え、えぇ・・・まぁ。」
「そうかそうか!そうだよな〜!いやぁ、今まで厳しく言ってきた甲斐があったよ!分かってくれて先生は嬉しいっ!」
先生はそう言いながら私の手を握りぶんぶんと上下に振る。予想外の展開に私はただ困り果てて優美ちゃんの方を見るけれど、優美ちゃんは笑いをこらえながら私たちを見ている。
・・・・助けてよ。
「でもな、黒澤。お前ももうちょっと長いほうがいいぞ?先生ちょっとだけ古風な子の方が愛嬌があっていいと思うんだ!それに短いといろいろ問題も出て来るんだよ。分かるか?例えば――」
はい、先生の爆裂トーク始まりました。しかも先生、古風な子って・・・・ちょっと危ない発言してますよ。
いや、それ以前に手を離してください。
仕方がないので先生の話が終わるまで聞いている不利をしようと決意した私。そして5分後。
「という訳なんだ!とにかく最近は先生体の疲れが酷くてなぁ。健康診断でもちょっと引っかかって・・・これからの人生が不安なんだ。保険にでも入ったほうがいいのかもなぁ?ハハハ!」
・・・・先生、あの話からどこがどうなってそんな話に・・・;;?
「アハハ・・・・。」
とりあえず、微妙な笑い声を上げてその場から逃げようとしたその時。
「そういえばさっきから君、何を見てるんだ?」
フイッと顔を優美ちゃんに向けた先生は不思議そうに首をかしげながらつかつかと窓に歩み寄る。
「え?別に。」
そう答えつつ、優美ちゃんは先生のために場所を空ける。
・・・って、何であけちゃうんだよー!止めてよ!そんなことしたら先輩が見つかっちゃって私の苦労が水の泡っ・・・・。
「ん?」
窓の外を見た先生が声をあげる。そして次の瞬間
「とっ・・・富樫!!アイツはまたぁ〜〜!!!」
そう言って猛ダッシュで教室を出て行く。
・・・・・・終わった・・・・・・・。
「・・・優美ちゃん・・・・。」
恨めしそうに優美ちゃんを見てそう言うと、彼女はただ笑っている。
「大丈夫だってアリサ。心配ご無用♪」
何が心配ご無用なのさ。タバコだよ?絶対物凄く怒られるよー・・・。
「まぁ、先生の厳し〜い処分の内容を帰りにでも富樫先輩に聞いてみたら?」
ニッコリとそう言う優美ちゃんは楽しんでいるとしか思えなかった。
ハァ・・・。私の苦労は何だったんだろう・・・・。

――「先輩、今日物凄〜く怒られませんでした?」
帰り道、優美ちゃんに言われたとおり私は先輩に問い掛ける。
「は?何が?」
先輩はワックスでツンツンに立っている自分の髪の毛をクシュッと掴みながら不思議そうにそう尋ねる。
「いや、あのー・・・昼休みに生徒指導の先生に怒られませんでしたか?」
予想とは少し違う反応に微妙に戸惑い、私はもう1度そう問い掛けた。すると先輩は「あぁ。」と言って頷く。
「ちょっと服装の事言われたな。でもそんなに怒られてはねぇけど?」
「ウソっ?」
あ。
思わず言葉が・・・・・。
「ウソって・・・・お前俺様をなんだと思ってんだ。」
不良です。なんて、絶対に言えません。
「す、すいません;;でもお昼・・・・タバコ吸ってませんでしたか!?」
あー、言っちゃった。私も結構度胸あるね!
そんな事を思いながら先輩の答えを待っていると・・・
「あぁ、アレ?あれはタバコの形の駄菓子ー。」
・・・・・・・は?
「駄菓子・・・・ですか?」
「おぅ。」
・・・マジかよ!じゃぁじゃぁ、私の苦労はいったい何!?
「アリサ見てたのか?」
先輩はそう言いながらポケットの中をごそごそと漁り始める。
「あ、あったあった。ホラこれ。」
取り出したのはやっぱりタバコみたいな箱に入った確かにタバコの形のラムネみたいなもの。
「やる。」
「・・・どうも。」
箱の中から1本取り出した先輩からそれを受け取り、何とも言えない気持ちでジッとそれを見つめた私。
あぁ・・・・カムバック、私の昼休み・・・・。
取り越し苦労かよ、と自分で自分に突っ込みながらパクッとそれをくわえてみた。口の中にはラムネの味が広がる。
「タバコはハタチになってからな〜。」
先輩はと言うと、二カッと笑ってそんな事を言った。調子良すぎます、貴方。
頭の中にはあの時の優美ちゃんの笑顔が浮かび上がる。
・・・そっか。優美ちゃんはこのこと知ってたんだ・・・・。
一人で焦って馬鹿みたいな自分だけど、誰も慰めてくれないからもうこのことは忘れよう。
今度先輩が何かしててももう絶対かかわらない、とこの時私は決意した。
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