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● 私の彼氏は・・・ --- 可愛くて、バーカ ●

「アリサ、イメチェンか?」
たまたま用事があって職員室に行っていた帰り、廊下を歩いているとポンッと肩に手がおかれる。
この声は・・・・
「先輩?」
後ろを振り向くと、やっぱりその人が立っていた。
うぅっ・・・・やっぱりこの人背高い・・・・。何か見下ろされてる気がするような・・・
「ふーん・・・。」
「ふーんって何ですか。」
先輩は昨日切って短くなった私の髪を触りながら、何とも微妙な声を上げる。
っていうか失礼な反応ですよね!?
「先輩こそ(毎日)イメチェンしてますよね。」
見下ろされているような気がしたのと、何だかあまりよさそうな感想が貰えなかった事に少しだけムッとして私も負けじと先輩を見上げながらそう言った。
ここで少し豆知識(?)。
先輩の髪色は毎日微妙な変化を遂げている。
先輩は私の言葉を聞くと「まぁな。」と、得意げに頷いた。
「毎日同じカッコってさぁ・・・見てて飽きるじゃん?」
「はぁ・・・まぁ・・・。」
でも・・・貴方の場合は絶対飽きないと思いますけどね・・・。
そう思ったけれど、口に出すと何をされるか分からないので黙っておこう。
っていうか・・・いい加減、髪触るのやめてくれないかなぁ・・・。廊下でこんなことされると結構、いや、かなり恥ずかしいんだよなぁ・・・;;
「あ、あの!」
「んー?」
私が声をかけると、先輩は自分の指に私の髪を絡めながら気の無い返事をする。
だから・・・もうちょっとましな反応は無いんですかっ!!
・・・いーよ!思い切って今までより少し短めにしてみたけど・・・そんなに似合わないならもういいですよっ!
黒澤アリサ、怒りましたよ!!
「私用事があるんで、失礼しますっ。」
先輩とは目をあわさずに口早にそう言うと、私はサッと踵を返す。
「アリサ?」
後ろからは不思議そうな声がかかるけれど、無視してずんずんと足を進める。
いくら自分がモテるからって・・・もうちょっと女心ってもんを知れ馬鹿野郎ー!!
あーもう・・・何か今更になって切らなきゃ良かったとか後悔しちゃうよー・・・・。
「黒澤さん?」
「は?」
・・・って、何友達にまで切れてんだ自分;;!
「あ、ゴメン!何?」
私の対応が相当悪かったようで、声をかけてくれた同じクラスの岡田君の表情が引きつっている。
慌てて元通りの声でそう問い掛けると、だんだんと彼の表情が和らいでくるのが分かった。
「いやあの・・・何か表情が険しかったからどうしたのかなー・・・と思って。・・・・何かあった?」
岡田君は困ったように笑いながらそう言った。
うぅ・・・・こんな奴の事気にかけてくれるなんて・・・いい人・・・。
「あのね、岡田君。」
「うん?」
「この髪型・・・・変?」
思い切って私は彼にそう問い掛けてみる。いきなりこんな事を言われると困るかな・・・とか思いつつ。
一瞬驚いたような顔をした岡田君。でもその後でふっと笑うと「何で?」と尋ねてくる。
・・・笑われたのが少し謎なんだけど・・・。
「ううん、ちょっと似合ってないのかなー・・・って思って・・・」
せっかく切ったのに・・・・。
何だか悲しい気持ちになりながらそう言うと、岡田君は悪戯っぽく笑って言った。
「まぁ・・・短いと少しだけ男の子っぽさが増すけどね。」
・・・・何だって!?
「あぁ、心配しなくてもそれは黒澤さんに限らずだけどね。」
・・・・何だ、そう言うことか・・・・。ビックリした・・・。
ふぅっと安堵の溜息を漏らすと、岡田君が可笑しそうに笑った。
「何?そんな事気にしてたの?大丈夫、十分可愛いよ。」
ケタケタと笑いながら、サラッとそんな事を言われて微妙に顔が熱くなるのを感じた。
この人お世辞が上手いなー・・・。
「ありがとね、岡田君。」
「どーいたしまして。」
これ以上顔が赤くなる前に、この人の前から立ち去ろう!!
そう思った私はまたもや口早にそう言うと、先ほどと同じように踵を返して教室に戻った。
「アリサ・・・今日機嫌いいよね?」
「えー?そうかなー。そうかもなー。」
「・・・普通そこは自覚しないよ。」
教室に戻ると、待っていた優美ちゃんにそう言われて思わず表情が緩んだ。
だってさぁ・・・先輩は普段可愛いなんて言ってくれないし・・・それだけ嬉しかったんだよ、岡田君の言葉。
お世辞でも幸せだー。
へにゃ〜っと笑っている私を不審気に見つめ、優美ちゃんが溜息をついた。
でもこのときの私はそんな事気にしないぐらい気持ちが浮かれていたのです。

それからいくつかの授業を終え、私はまたしても職員室に呼び出された。それは別にお叱りを受けるためとかそう言うのではなく、単に配布物を取りに来るようにいわれただけのこと。
そしてやっぱり帰り道、何故かまた先輩に遭遇してしまった。
その瞬間今までハッピーだった私の心は少しずつ、でも確実に怒りへと変わっていく。
「アリサ」
そう呼び止められても
「何ですか。」
と、あえて素っ気なく返す。
へんっ。先輩は大体無神経なんですよっ。
そう思いながらふいっと顔を背けると・・・
「イメチェン、もうやめとけよ。」
という言葉が飛んでくる。
・・・・それは・・・・似合わないからやめろと、そういうことですか?
ですよね!?
・・・・黒澤アリサ、再びキレました。
「何で先輩にそんな事言われなきゃいけないんですか。」
完璧にキレてしまった私は睨みつけるように先輩にそう言う。
多分この学校に居る誰一人として、この人にこんな態度取れないと思う。たくましくなったなぁ・・・自分・・・。
って、感心してる場合じゃなくて。
「あのさぁ・・・・」
私の言葉に、言いづらそうに目をそむけながら口ごもる先輩。
「・・・何なんですか・・・似合ってないならそうだって・・・言ってくれればいいじゃないですかぁ!」
くそぅ・・・。
レディーにこんな事言わせやがってぇー!!(泣)
「んな事言ってねぇじゃん。」
と、不意に焦ったように先輩がそう否定する。
「じゃぁ・・・何なんですか。」
怒りと悲しみと後悔で涙目になってしまった目を向けてそう問い詰めると、不意に先輩に髪を撫でられる。
そして、一言。
「可愛いよ。」
・・・・・。
「あ・・・あの・・・・」
そんな直球に言われると・・・・私はどうすればいいんですか!?
恥ずかしさと緊張のあまり、顔が急激に赤くなるのを感じながらうろたえる私。
「えーっとだからその・・・・他の男の目につかない程度にしとけ。」
・・・・ハイ?
最後にぽんぽん、と頭を撫でてからそう言って先輩は私に背を向ける。
その背中が恥ずかしそうに縮こまって見えたのは私だけなんだろうか。
「先輩って・・・・」
言葉の意味を理解するのに時間がかかった私は、少し経ってからぷっと吹き出す。
「意外とシャイなんですねぇ・・・・」
あの先輩が・・・・。
でも・・・ヤバイ。メチャクチャさっきの言葉嬉しいんだけど・・・。
悪いけど岡田君のときとは比べ物にならないね!(←本当に悪い)
気分が最高によくなった私は、そのままスキップでもしそうな勢いで教室に戻っていった。

「アリサ、さっきより機嫌いいよね?」
「えー?アハーvそうかもーvv」
「・・・・・。」
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