●● 私の彼氏は・・・ --- 隣に居るのに遠いひと ●●
始まりは、全部全部突然だった。
「先輩って、好きとか言ってくれませんよね。」
私は皮肉のつもりで隣でタバコを吸っている人物に声をかける。因みにまだ未成年なのでこんなことしていいはずがない。
でも言ったところで聞くような人じゃないことは分かってる。
「あ?」
彼は少し面倒くさそうに顔をこちらに向けた。タバコの煙も一緒にこっちを向く。
私この臭い嫌いかも。
「言ってほしい?」
ごく自然に煙を吐き出し、そしてまた吸う。そんな事を繰り返しながら先輩は言った。
「いえ、別に。」
私は淡々と答える。
「イエスって答えても言ってくれなさそうだもん。」
僅かに笑いながら、私は言った。
だって、分かってるから。
「アリサはたまに変な事言うよなぁ。」
「先輩には負けますよ。」
にっこりと笑って言うと、渋い顔をされた。
でも、やっぱり分かってるから私はそれ以上何も言わない。
だって始まりは突然で。その時から自分の気持ちだってよく分かんないんだもん。
「もうすぐ星が見えますねー。」
私は空を見上げた。もう夕焼けは少しずつ闇に包まれていってる。
そんな中で、私達は小さな公園のブランコに腰掛けていた。
いつもの帰り道で、気まぐれに立ち寄った公園。
「・・・・・・。」
タバコを踏み潰しながら、先輩も空を見上げる。
「ダメですよ。公園にタバコ捨てるなんて。」
「これから拾うんだよ。」
ちょっとだけ不機嫌そうな声でそう言って、先輩はダルそうにタバコを拾った。
子供っぽいけど素直な人。
感情のあらわし方が苦手なのかなぁ。
こんなのだからこの人不良になんかなっちゃったのかも・・・・?
そんな事を考えながら、私はただジッと薄く姿を現している月を眺めた。
ねぇ先輩。
もうすぐ星が出ますよ。ちゃんと私の話聞いてくれてる?
「好き」なんて言葉滅多に貰った事ないけど。
いっつも一人でトーク炸裂してるくせに。
でも、垣間見る優しさがとてつもなく好きで。
っていうか、楽しくて。ただ隣に居たいって思う。
始まりは「俺のカノジョになってねー。」なんていうフザけた言葉だった。普通好きとか言うんだと思ってたけど。
だからたまに不安になる。本当にこの人、私のこと好きなのかなぁ・・・って。
本当のこと言うと、私もあなたの事が好きなのかどうか分からないんです。
だからまぁ・・・・オアイコですね。
「アリサ」
ふと、思い出したように名前を呼ばれた。隣を見ると先輩が空を見上げたまま呟く。
「・・・帰るか。」
はい、と返事をしてブランコから立ち上がる間際、私は空のかなたに見つけた。
小さく光る、1つの星。
「・・・・何笑ってんだ?」
「何でもないですよ。」
くすっと微笑むと、訝しげな顔をされた。
でもそれでも・・・・・
「アハハ」
「何だよ!!」
本格的に怒り出しそうな先輩より一足先に、公園の外に置いてあるバイクまで駆けていく。
弾む心と一緒に。
ねぇ、先輩。
「好き」なんて言葉滅多に、ううん、もしかしたらまだ1度も聞いてないかもしれないけど。
私大切にされてるって、自惚れてもいいかなぁ?
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