* 16歳の結婚生活。 12


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転校生であり、隣人である尾崎君に私と拓馬の関係がバレて一夜明けて――。


「ハル、今日は一緒に学校行こうぜ」
朝っぱらから目をぎらつかせそう言った拓馬の考えを私は読んでしまった。そしてそのうえであえて「嫌。」と即答。
「何でだよ!お前1人で学校に行かせたら絶対隣の部屋から見計らったみたいに尾崎が出てきてそれでお前と一緒に・・・・・あークソやろぉぉ!!」
人が朝食の用意でバタバタとしているときにコイツは一体何を考えているんだろうか・・・。
独り言(?)を呟いて頭まで抱え込んで・・・。どうせ私が尾崎君と登校するところでも考えてるんでしょ。
でもね・・・・、

「アンタと登校するぐらいなら、そっちの方がまだまし」

私は何故かふてくされている拓馬に向かってしれっとそう告げる。もちろん奴の考えを読んだうえでの事。
「・・・・・・・・・・。」
そうすると奴は、捨てられた子犬のような目を私に向けてくる。
「あー・・・・朝からそんな目向けないでよ!っていうか座るなら手伝ってくれてもいいでしょ!?」
役に立たない同居人に向かって私は思いっきり怒鳴る。そしてその言葉を受けた拓馬は数秒黙り込み、

「なぁハル、やっぱお前を1人で登校なんてさせらんねぇよ」

私の話は無視なのか!?
何か真剣に考えてると思えばそんな事・・・。
「もうそのことはいいから。」
ムカついたから奴の話を思いっきり流してやった。そして再度朝食作りにとりかかる。後ろから感じる恨めしそうな視線は気にしない・・・と。
私が包丁を握った瞬間に拓馬がまた口を開いた。
「もし一緒に行かないなら・・・」
何かたくらんだようなその口調を聞き取った瞬間、私は包丁を持ったままサッと後ろを振り向く。そこにはさっきとは打って変わってニヒルな笑顔を浮かべた奴の姿が。

「キスするぞ、ハル」

な・・・殴っていいですか?いや、それよりもむしろ、
「アンタそれ以上喋ったら刺すからね」
私はニッコリ笑って一言告げる。もしかしたらこの時点で奴の死期も近づいていたかもしれない。イヤ、本気で。
「・・・・・・・・・。」
「刺す」と包丁を持ちながら言われるとさすがの奴も手出しが出来ないようで、チッと舌打ちすると目の前のコーヒーを一口すする。

はぁ・・・。何で私が朝からこんな無駄な労力使わなきゃいけないのよ・・・。そう思いながら私は3度目の正直とでも言うように本当の本当に朝食作り再開。
全く。今までのこの無駄な時間でとっくに学校に行く支度出来てるのに・・・・!!

それからどうにか遅刻せずに朝食を食べ終えた私達は、それぞれ学校に行く準備をして部屋を出た。出た・・・のはいいんだけど・・・。
がちゃ、と言うドアの開く音がしたかと思うと隣の部屋からひょっこり顔を出したのはあまりにも間の悪い尾崎君。いや、ある意味ナイスタイミング?
ガチャガチャと部屋に鍵をかけていた拓馬もかなり敏感にその音に反応する。そして尾崎君の姿を確認すると昨日のことを思い出しながら冷笑を浮かべる。
が、そんな事お構いなしに尾崎君は私にさわやかに微笑んだ。
「あ、ハルちゃん。おはよう」
「お・・・おはよっ」
この状況を唯一正確に読み取れているだろう私はしどろもどろでそう返す。
「おはようございます。風靡先輩」
「・・・・・・・・よぉ」
それから私のときとは少し違う笑顔を浮かべながら、尾崎君は私の横に立っている拓馬にも挨拶する。それに対して愛想の無い返事を返す奴。間に挟まれている私は居心地の悪いことこの上ない。
それから嫌〜な沈黙が流れ、思い出したように尾崎君が口を開く。

「そうだハルちゃん。学校一緒に行ってくれねぇ?俺まだ道が良く分からなくてさぁ・・・」

・・・ギクっ。
拓馬の想像してた事現実になってる・・・!いや、私もなんとなく出来てたけど!
私はちらりと拓馬を伺い見る。何で即座に奴の顔色なんて伺ったのかは謎なんだけど、その表情は明らかに不満そうなもので。・・・っていうか、敵意剥き出し。
そして私が返事をする前に拓馬が口を開いたかと思うと、
「悪いけどハルはこれから俺と登校すっから」
どこか余裕さえ感じられる物腰で尾崎君に宣戦布告。

っていうか、私はあんたと一緒に行くなんて言ってなーい!!

それでもこれ以上何か言って話がこじれる方が面倒だと思ったので、私はあえて苦笑するだけ。
そんな私の心中を読み取ったかのように尾崎君が一言。

「でもそれって先輩の独断じゃないんですか?」

な・・・ナイス!!その通りだよ尾崎君!!出会って二日目なのに拓馬の事分かりすぎっっ。
彼の勘の良さに思わず目を輝かせる。
「ハルちゃんも嫌そうだし」
そんな私を見て最後のとどめだ、とでも言わんばかりに満面の笑みでそう言う尾崎君。昨日の好青年ぶりは何処へやら・・・。
でもこの状況、案外おもしろい。拓馬がこんな悔しそうにするのは初めて見るから。
――と、いきなり奴が私のほうを向いて。
・・・・・・ん?何ですか?

「ハルはどうしたい?」

・・・え、ちょっと待ってよ!いきなり話振られても・・・!
私は急に自分に向けられた問いに対して少したじろぐ。だってここで拓馬を選べば尾崎君にますます勘違いされるし尾崎君を選べば間違いなく拓馬がすねるし・・・。
――っていうか何で私が間に挟まれなきゃいけないのー!?

「わ、私は・・・・・・・・・・・どっちでも」

そして迷った末に出てきた答えがこれ。何故か自信なさ気に俯きながら言う自分が情けないわ・・・。
「じゃあ決まり!ご一緒させてもらいますよ、先輩」
ニコッと笑って楽しそうに言う尾崎君を睨んだ後、訴えるような目でこっちを見つめてくる拓馬。
もう・・・そんな目で見ないでー!!無駄な罪悪感を覚えるから!!
私は必死で奴と目を合わせないように視線を逸らす。きっと家に帰ってからさんざんお仕置きされるんだろうなー・・・――って、何で私がそこまで肩身の狭い思いをしなきゃいけないの!?
や・・・やばいわ。最近自分の意志が薄れてきてる・・・・!

そういえば今の今まで忘れてたけど、尾崎君が私達のこと誰かに喋ったら私の高校生活終わり・・・よね?ハッ!パニックで完璧にその事忘れてたっっ!!
ど、どうしよう・・・学校についてから口止めしようかな・・・。
「どーしたハル?行くぞ」
相当考え込んでいた私に向かって不機嫌モード突入の拓馬が声をかける。
「わっ――ちょっと!」
そして「え?」と思った瞬間には手を握られ強制連行。
ちょっと・・・そんな事しなくても逃げないって!!っていうか人前でこんなのすーるーなぁー!!
「離してよっ」
恥ずかしさのあまり手を振り解こうとした私に対して更に強い力でギュッと腕を掴んでくる拓馬。そして「ヤダね」と一蹴。
・・・全くコイツはっ・・・!!

そんな私達を見た尾崎君は何故か何の感情も読み取れない表情を浮かべていた。でも生憎拓馬の相手をしている私の目にそんなものが入ってくるはずも無く。
「尾崎君〜!」
私が彼に助けを求めたときにはいつもの人懐っこい表情に戻っていたから尚更。
「先輩、ハルちゃん嫌がってますけど?そんなのだから嫌われるんですよ」
「なっ・・・!?」
そしてまた2人の言い合いが始まる。とりあえず私は解放されたからOKって事で。
そして2人の会話を聞きながら笑う自分がそこにはいた。こんな状況なのに、もう本当に危機的状況なのに。それでも何故か楽しいと感じてしまった私。
こんなのも悪くないのかな・・・なんて思っちゃったりして。明らかに初めてあった日から拓馬に洗脳されて行ってる。
それから最近、自分が惷の事を考えている時間が少なくなったのに気づく。
もしかしてこれも拓馬のお陰・・・なのかな?やっぱり・・・。認めたくないけど、すごく皮肉なことに。もう少しで克服できるかもしれない・・・惷の事。
そう思うと物凄く複雑な気分になった。彼のことを好きだという気持ちが薄れていくのが少し悲しかった。
――でも。

「ハル、何してんだ?置いてくぞ」
無愛想な顔でそう言って手を差し伸べてくる拓馬に無意識で体が動いてしまうのも事実で。
多分好きなんて気持ち、まだこれっぽっちもないんだろうけど。それでも今のこの状態は最初に比べると大分まし。・・・ううん、それよりずっといい。
だから、私は。

「うんっ」

今はその手を握ってゆっくり歩いていくのも悪くないな、なんて思えた。
・・・もうちょっとコイツと、一緒に居てやってもいいかな。
期限は3ヶ月間。時間はまだある。
とりあえず少しだけ婚約破棄宣言はおあずけって事で・・・・・・ね。


 


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