* 16歳の結婚生活。 3
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「ちょっと・・・・そんな目で見ないでよ・・・・・」
私は突き刺さるような視線に耐え切れずにそう言った。だって目の前に居るコイツ、拓馬は2つも年上に見えないような子供っぽい、かつキツイ視線を私に向けてくるんだから。
「それと・・・・さっきの事撤回したいんだけど・・・・・・」
「あ?」
私は結婚してくれと言われて思わず頷いてしまったアレを取り消したくてそう切り出した。
だってこのままじゃ本当にやられるよ自分!?向こうは本気だし・・・っ!!・・・でも。

「アンタ今更になってそんなこと言ってんの?さっき俺に見惚れて頷いてたじゃねぇかっ」

相手はそんなに甘くない。いやーん、この人本気で怒っちゃってるじゃない。
でもね?こっちにしてみればこれを言っちゃえば終わり、的な物凄〜く痛い言葉があるんだからね?それにその言葉、ここで使わなきゃいつ使うのよ自分。
だからえーと・・・ごめんなさい。

「私、アンタのこと好きじゃないし」

・・・勝った。勝ったよ私!!これを言われちゃぁ結婚も何もない・・・よね?
言った直後、何故か不安な気持ちになりながら相手の表情をうかがう自分が居た。
・・・って!!何で私がこんなビクビクしなきゃいけないの!!

けれど・・・・・私の嫌〜な予感的中。
事もあろうに目の前の人物はとんでもないことサラッと一言。

「別に。俺は好きだけど?」

・・・・・あぁ・・・もう。開いた口が塞がらないって正にこれ?
一瞬だけ呆けた表情を瞬時に引き締め、そうして私はすぐに反論する。
「けっ・・・・・・・結婚って相手の了解があってこそのもんでしょー!?」
力いっぱいそう叫ぶ。
そうよ!何で私が好きでもない相手と結婚しなきゃなんないわけ!?
「まぁ・・・・・・それもそうだな」
さすがの奴も今度は私の言葉に納得したらしく、髪をかき上げながらそう言う。
うわー・・・・・・綺麗な茶髪ー・・・・・。じゃなくてっ!!

「ね?そうでしょ?だからこの結婚はなし」

はい終わり、と手を叩きながら言った私に奴は人を小ばかにしたようなため息をつく。まるで手に負えない子供を前にしたときのように。
・・・失礼な奴っっ。

「つまり」

そうして私の怒りが頂点に達しかけようとしていたそのとき、奴は口を開いた。


「ハルが俺のことを好きになればいいわけだろ?」

ニッと笑いながら拓馬はそう言った。そしてまたしても私に詰め寄ってくる。
いやいや・・・だから何でそうすぐ近づいて来るかなぁ?
私は必死で近づいてくる奴から逃げようとした。一歩ずつ確実に後ずさる。でも後ろにあった”何か”につまずいて・・・・情けなくも大転倒。
「ひゃぁ!!」
情けない悲鳴を上げながら私はその場に倒れこんだ。屋内で転ぶなんて何年ぶりだろう・・・・・。
「っ・・・痛・・・・・」
涙目になりながら体を起こす。うぅっ、フローリングが固いよぅっ・・・!

本当に本当に情けないことに、ぼやけた景色が目の前に広がって。同時にクスクスと小さな笑い声が・・・・・・と思ったら、それはすぐに大きな笑い声に変わった。
「お前それ・・・自分の荷物!」
敵に恥ずかしい所を見られて傷心中の私を挑発するかのように、拓馬はおなかを抱えて笑っている。
・・・荷物?荷物ってもしかして・・・・・・・拓馬がここまで持ってきてくれたアレのこと?私そんなものでこけたの!?

何かもう・・・・・・・・・・・・哀れ。

「ハァ・・・・いつまで座ってんだよ。ほら、捕まって・・・・・・・って、オイ・・・!?」
一しきり笑い終えた拓馬は最後に溜息をつくと、片手を私に差し出す。けれどその顔が瞬時に困惑で歪み。
「何で・・・泣く事ないだろ・・・!?」
焦りの混じった声で、そう一言。
だって、しょうがないじゃん!人のこと散々馬鹿にして笑ったくせにっ・・・!
自分の情けなさとか、今までの急展開に耐え切れなかったものに対しての涙がドバッと溢れてきて止まらない。

「別に泣くことねぇだろ・・・ちょっと言い過ぎたって、な?」
そんな私をあやすかのように拓馬がポン、と頭の上に手を置いてくる。こんな状況でもまだムカツク奴・・・!!
「だって・・・・・!!」
泣き顔を見られたくなくて顔を隠しながら、私は何とか反論しようと頭をフル回転させる。でも言葉が続かない。涙があふれて来て、止まらない。
あー悔しいー!こんな奴の前で号泣なんてあーりーえーなーいー!!
「・・・・・俺が悪かったから・・・・泣くなって」
と、不意に私の体は温かいものに包まれた。
驚いて体を硬くしたけれど、まるで私を落ち着かせるように背中をぽんぽんと叩かれる。

ま・・・・・まさかこれは漫画なんかで定番だって言うぐらいの、あのシーン?ねぇ、そうなの!?
まさか――っていうかまさかしなくても――私抱きしめられてる・・・・・!?

「お前に婚約破棄されたら・・・・・・・俺だって泣きてぇよ」
はぁ、とため息をつきながら拓馬がそんな事を言った。
――あぁ、そっか。確かあの時もコイツがこうやって抱きしめてくれてたんだ。泣いてた私をずっと。
・・・でもアンタ今どんな顔してんの?顔が見えないからわかんないんだけど、泣きそうって大げさじゃないの?どうしてそこまで私のこと思ってくれるの?
――変な奴。

「も・・・・・・・大丈夫」
私は涙が止まるのを待って、ゆっくりと拓馬から体を離した。向こうも力を緩めてくれる。
「悪い」
今までアレだけムカツク奴だった拓馬が急にしおらしくなる。しかもその顔はなんだかとっても切なそうで。
私はそれを見たときに何故か無性に悲しくなった。この気持ちは・・・・何なんだろう。いや、もし恋とかなら本当急展開過ぎるって自分。多分これは恋じゃなくて・・・もっと違う別のものなんだよ。
自分のせいで誰かが悲しんだり泣いてたりするのって、見てて気持ち良くないし。っていうか私そう言うの大嫌いだし。
だからこれは、恋じゃない。

「うん・・・・ありがとう」
一応私の事を心配してくれたみたいだし、とりあえずそうお礼を言うと。
拓馬はそれを聞いた瞬間かなりビックリしたように目を見開く。
――あれ、予想外?
な・・・何か居心地悪い・・・・・・・。

「ハル・・・・・・・」
気まずさから、ジッと俯いて座る私の名前を拓馬が呼ぶ。そしてもう1度ギュッと私の体を抱きしめた。
「大好きだ」
そうして耳元ではそんな言葉が囁かれた。それはとてつもない熱を帯びていて、でも何だか心地良い感じがする。
思わず――そう、本当に衝動的に。

私は奴の背中に、手を伸ばしてしまっていた。


戸枝ハル、16歳。私はもう自分の心がコントロールできません・・・!?



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