11.超ド級鈍感
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「なぁ爽也、お前最近静かだな」
「・・・別に」
 授業中、前の席の友達にふとそんな事を言われて爽也は何処かぼんやりとしつつ答えた。
 あの日、麗と樹が付き合っていたという衝撃の事実を告げられてから彼は何かボーっとする事が多くなっていた。勿論、本人に自覚症状は無い。だから友達に訝しがられても今のように流すような返答が多いのだが・・・・
「あ、そう言えば原因聞いたぜ?恋煩い(こいわずらい)だってなー今時。ウププ」
「!?」
 授業の邪魔にならないように――もっと言えば先生に見つからないように最小限の声で話す友達だったが、今の言葉はさすがに爽也にとって流せるような内容ではなかった。
 幸い大声で叫んだりしなかったものの・・・と言うか、驚きすぎて声が出なかっただけなのだが、それでも爽也は他の生徒から見れば有り得ないぐらいのきょどりっぷりでかえって不審だった。
「あの・・・矢野君具合悪いの?」
「い、いや!大丈夫だよ!」
 実際そんな言葉をかけられ彼は真っ赤になりつつそう返す。そうしてその顔のまま、
「お前誰からそんな事聞いたんだよ・・・!!つーか笑っただろ?なぁ!」
 こちらも負けじと最小限の声で言い返す。勿論麗には負けられないのでちゃんと授業も聞きながら。
 こういうところだけはちゃっかりしている副会長である。
「えー、誰って。結構みんな知ってるぜ?あ、確か坂下が言ってたかなぁ」
「アイツかよ!」
 驚きだ。まさかあの温厚でいつも人に流されて生きてそうなヘロヘロな感じの優志が。
 少々・・・と言うか大分失礼な事を思いながら爽也は呆然とする。
 ――結構みんなって事は・・・俺が恋煩いだってみんな勘違いしてるのか!?
「な・・・なぁ、それもっと詳しく教えろよ!あ、話してたら見つかるから手紙に書いて寄越せよ!」
「やだよそんな女みたいな事。気色悪い」
「何でだよー!!」
 彼の真相を知る糸口は「気色悪い」の一言で消えうせてしまったのだった。

「オイコラ坂下!!」
「あ、あれ?矢野がわざわざ俺のところまでくるなんて珍しいなぁ・・・」
 休み時間。授業が終わると同時に一目散に優志のクラスに飛んできた爽也は息を荒げて彼に詰め寄っていた。勿論その理由を知っている優志は爽也と目を合わせず、しかもいつでも逃げられる体制を保っていた。
 けれど大恥をかいた爽也はと言うと、周りが見えていないためそんな事には全く気づいていない。
「しらばっくれんじゃねぇ!誰が恋煩いだって!?」
「・・・違うの?」
「当たり前だろ!つーか何でそんな噂流してんだよ?恋って誰が誰に!?」
「・・・・・・・・・・・は?」
 さすがに爽也のこの一言には、優志もとっさに返す言葉が出てこず。
「あれ・・・君、それ本気で言ってんの?」
「だーかーらー、変な噂流すなっつってんだろ!?弁解しろよ弁解!俺の勘違いだった、って!分かったな!?今日中に弁解しねぇと狩野にも悪い事吹き込んどくからなっ」
 ぽかーんとしたままの優志にそう言って、爽也は「じゃぁな!!」と疾風のように去っていく。そんな彼を見つめながら、
「・・・・どうしようか、美夜さん・・・・・・」
 優志は溜息交じりで呟いたのだった。

 さてさて、優志のクラスから言いたいことだけ言って帰ってきた爽也はと言うと。
 ――全く変な噂流しやがって。
 それにしても坂下は誰と勘違いしてそんな噂を流したんだか。アイツも勘違いする事あるんだなぁ。
 そんな呑気かつ馬鹿みたいなことを考えながら、大勢の生徒が行き交う廊下を一人黙々と歩いていた。けれど意外とドジな彼がそんな事をしていると、何か起こらないはずはなく。
「のゎっ!?」
 不意に何かにつまずいて、勢い良く前につんのめる。瞬時に対応しなかった反射神経のせいでそのまま止まれるはずもなく、結局爽也はバタリと無様な格好で転んだ。
「だ・・・大丈夫矢野君!?」
 そんな爽也の頭上から降ってくるのは甲高い女子の声。どうやら廊下で喋っていた彼女の足につまずいたらしい。なんとも情けない話だ。
 何が起こったのかまだ良く把握出来ていないが、自分がとてつもなくかっこ悪い状況だと悟った爽也は泣きたくなるのを我慢しつつ、
「だ・・・大丈――」
 そう言って起き上がろうとしたのだが。
「ごめんねごめんねごめんねー!!私がこんなとこで足出して喋ってたから!保健室行こうすぐ行こう!私も付き添うから!」
「いや、俺は・・・・」
「遠慮しなくていいんだって!ほら、アンタ早く副会長を連れて行って差し上げなさい!」
「分かってるわよ!行こう矢野君っ」
 怒涛のように喋る女子二人組みに見事に話を遮られ、立ち上がったときにはそのうちの一人にもう腕を掴れて引きずられるように保健室に強制連行。
「へ?え!?」
 わけが分からず声をあげたが無駄だった。
 生徒会メンバーの言われようとは打って変わり、全校で考えると意外と人気のある副会長。本人は知らないが密かにファンクラブなどもあったりで、今捕まってしまったのは運悪くその会員だった。
「あれ、女の子なんかと一緒に何処行くんだよ爽也?もう授業始まるぞ」
 すれ違う友達にはそんな言葉を投げかけられ、助けを求めようと思ったが歩くペースが速すぎて間に合わず。
 ――何なんだこれは・・・!?何で俺こんな事になってんだよ、つーか授業ー!!

 こうして、問答無用で彼は保健室に連れて行かれたのだった。    
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