14.元彼×会長×副会長
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 お見舞い、というのは手ぶらで行くものじゃない。
 常識的に考えてそう言う考えに行き着いた爽也はうーんと唸った挙句にスーパーでゼリーとアイスを買った。これは、熱があるのだから何か冷たいものを、と考えた結果だった。
 アイスが溶けないようにドライアイスもきちんと入れて、スーパーの袋を持って麗の家に向かう。何となく自分がかっこ悪い気がして、頬が熱くなった。
 学校帰りに年頃の男子高校生が一人スーパーによってアイスとゼリーを買う。
 ・・・・・・空しい。
「いいんだ、俺はお見舞いに行くんだから」
 自分にそう言い聞かせ、爽也は歩調を速める。勿論アイスが溶ける前に麗に渡したかったからと言うのもあるけれど、彼女の事を考えると気になって自然と足が速まったのだ。
 因みに、麗の家を知っているはずもない爽也はあの後ぴしゃりと閉められた生徒会室のドアに向かって必死にそれを尋ねた。するとすぐに、呆れた顔で美夜がドアを開けて気だるそうに説明し始めた。
 ――いや、そんなに邪険に扱わなくても。
 そう思いつつ、しっかりと麗の家までの道のりを頭にインプットしたのだ。自分の家とは正反対の方向にあるため、同じ町だと言うのに見る景色が何処か違う場所のもののように見える。
「はぁー・・・」
 何となく、溜息が出た。
 何処と無く気が重いのは、麗の反応を想像してみての事だった。絶対に不思議に思われるに違いない。いや、それよりも「副会長が私の心配なんてしてたんですか」と言われる事間違いなしだ。
「・・・・・はぁ」
 当然だろう。保健室であんな風に接してしまったのだから。・・・勿論、知っていても優しく出来た自信はないけれど。
「ま、まぁこれから挽回すればいいし!」
 そう思って、彼は自分を励ますように小さくガッツポーズを作ってそう言った。けれど、言った直後にハッと気づく。
 ――挽回?挽回って、何を?
「・・・俺・・・・」
 俺、まさか本気で水沢の事を――。
「好き・・・じゃねぇ!!」
 核心に迫る前に、フルフルと頭を振りながら爽也は叫んだ。
 違う。これは好きなんかじゃない。ましてや相手は嫌味なライバルだ。好きになる要素なんて何処にあった?自分の気持ちは自分が1番良く知っているはずで、生徒会メンバーが何といおうとこれは自分にしか分からない感情だ。
 そうやって自分の奥底にあるモヤモヤを消し去る。最近はこういう事が頻繁にあり過ぎて、それがもう無意識のうちの行動になっていた。
 たまたまそこを通りかかった一匹の猫は明らかに畏怖の色を浮かべて、一人ガッツポーズで叫ぶ爽也を凝視した後走って逃げていった。

――「あー・・・、れ?」
 頭が重い。頬が、というか全身が熱に包まれ、その不快感に目を覚ました麗は1番に目に入ってきた白い天井を不思議に思いながら見つめた。
 ――何で、天井?
「麗起きたのかぁ?」
 そうすると、どこか離れた場所から聞こえてくる人の声。重い頭を動かしてそちらに目をやると、近くにあったソファーから身を乗り出してこちらを見ている“元彼”の姿。
「・・・アキ!?」
 それを確認すると、麗は驚いて起き上がる。そう言えば体調が悪くて保健室に行ったあと早退することになって、アキ――春日明良に家まで送ってもらう事になったのだ。
 けれど、家に着いてからの記憶がない。その辺りから熱のせいで意識が朦朧としていた気がする。
「・・・・なんかした?」
「してないって!」
 恐らくは明良がかけてくれたのだろう布団を瞬時に引き上げ、麗は眉間にしわを寄せてそう尋ねた。するとそれをブンブンと頭を振って否定する明良。
「俺はそこまで飢えてないよ!」
「どうだか。1回浮気した奴が言える台詞かなぁ、それ」
「麗〜!それもう許してよぅ、俺めちゃくちゃ後悔してるんだから!」
 明良が自分に何もしていない事を分かっていつつ、ふぅ、と溜息をついて彼を少し脅してみる。
 明良は麗の中学3年生の時の彼氏だった。けれど、受験生ということもあり真面目に勉強していて彼にあまり構っていない間に浮気をされて、別れた。もともと軽い感じの明良だったし、麗も自分が悪いところがあった事を認めているから別に怒っているわけではない。ただ、最近またよりを戻そうと迫られているけれどもう1度付き合う気にもなれないので、その言い訳のように過去の話を持ち出すだけだ。
 友達程度に付き合うなら、それは大歓迎なのだけれど・・・。
「なぁ麗、頼むよ。俺もう絶対浮気なんかしないからもう1回やり直そう?」
「そんな甘えた声で言っても駄目だよ」
 冷たく突き放す気にもなれなくて、曖昧に笑ってそう言ってみる。それから彼女は逃げるように
「私汗かいたみたいだから、ちょっとタオル取ってくるね」
 そう言って、部屋を後にする。けれどそんな彼女のあとに、駄々をこねる子供のようにくっついて歩く明良。終いにはOKだと言うまで離さないとでも言うように、麗に背後から抱きついてしまった。
「ねぇ麗ー」
「ちょ、アキ!汗かいてるって言ったじゃん、くっつかないでよ!」
 抱きつかれてもドキっとしない。あぁ、これはもうやり直す余地なんてないな。そんな事を考えつつ、体の気だるさと明良の重みにイライラしながら顔をしかめる。何というか、顔はいいし他の女子からは人気な彼なのだが、子供っぽいところがどうも気に入らない。
「早く離れてよ」
「嫌。麗がちゃんと返事してくれるまで離れない」
 ――しつこいなぁ・・・・。
 今まで柔和に接してきたが、ここまでくるとそろそろ我慢も限界だ。
「そこまで言うならハッキリ言うけど、私はねぇ――」
 決心して、そう言いかけた時だった。
「こ、こんにちはー・・・・」
 どこか遠慮がちな声とともに玄関のドアが開いて。運の悪いことに、入ってきたのは爽也。
「・・・・副会長?」
 何故?と、その言葉が真っ先に頭に浮かび上がる。それはもう一瞬明良に抱きつかれていることを忘れるぐらいの勢いで。
 けれど、爽也はそうは行かないようで。
「・・・・・え?ちょ・・・お前ら何してっ・・・!?」
 突然目に入ってきた明らかに体制のおかしい彼らを見て、目を見開いてオロオロと後ずさる。以外に純な彼だけに、見たものをそのままの意味で捉えたのだろう。
「いや、ちょっと勘違いしないでくださいよ」
「っていうか何でお前そんな冷静なんだよ!?」
 さらりと言葉を返した麗に爽也は叫んで、それから明良に目を向けた。
「あ、保健室で会った人」
「ふ・・・副会長の矢野爽也です・・・・けど・・・」
「何でそんな自信なさ気なんですか」
「う・・・うるさい!っていうかいつまで人前でイチャついてんだよ!」
「いえ、だからこれはそうじゃなくて――」
「あ、何かいつの間にか流されてるし!なぁ麗返事の続きはー!」
「あーもうだから・・・」
「おい、俺放置かよ!?」
 一方的に自分ばかりに向けられる質問。麗の限界は、もうすぐそこまで来ていた。
「・・・・あーもううるさい!!何しにきたか知りませんけど、とりあえず上がってください副会長!それからアキ、離れて!で、二人ともリビング行く!そこで言いたいことは順番に言え!」
 いつの間にか命令口調になっているのは彼女の少しグレていたいた頃の言葉遣いの名残だなんて事は軽く流すとして・・・。
「こっちですから」
 どうして俺まで巻き込まれてるんだろう。そんな事を思って呆然とする爽也をよそに、麗は彼と明良を強引に引っ張ってリビングまで連れて行く。
 ――なんだろう、この奇妙なメンバーは。
 明らかな違和感に首を傾げつつ、こうして爽也は麗の家に連れ込まれる羽目になる。  
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