「それにしても・・・事情聴取って具体的に誰にするんですか?」 「そりゃぁ、坂下の友達だろ」 歩きながら、麗と爽也はそんな会話を交わす。今思えばこうやってまともに言葉を交わすのは初めてかもしれないと、麗は密かに思った。 ・・・顔も成績も悪くないんだけどなぁ・・・・。 「水沢、何難しい顔してんだよ」 「何でもないですよ」 どうやら思いっきり顔に出ていたようで、怪訝そうな顔でそう問われる。 言えない。絶対に。 あなたは性格がちょっと・・・・、なんて。 「それより副会長、取り返しがつかなくなる前にさっさと行きますよ!もたもたしてると下校時間になっちゃいますから」 「分かってるよ」 小走りで駆けていく麗を見ながら、少しだけムッとしつつ爽也は答える。 因みに、生徒会活動は基本的に放課後やる事が多い。なのでこのメンバーはクラブに入っていない者が多かった。 そして麗もその一人である。 「坂下先輩とお知り合いの方って何部なんですか?クラブ中にお邪魔するのも何ですけど」 振り返って爽也に問うと、彼はわずかに考える風を見せ。 「バスケ・・・かな。あいつ実はバスケ部なんだけどさぁ、放課後はいつも狩野に引っ付いてるから」 「初耳ですね」 部活を休んで(あるいはさぼって)まで彼女の手伝いをする優志と、何だかんだ言いつつ彼に支えられている美夜を思うと何だか微笑ましく思えた。 「それじゃ、体育館に行ってみましょうか」 麗は提案して、くるりとそちらに方向転換する。 「立場・・・・逆転してねぇ・・・?」 ポツリと呟いた爽也の言葉は麗の耳に入る事は無かった。 ――「坂下が、浮気?」 そんなわけで、体育館でバスケ部員を捕まえた麗と爽也はというと。 「はい、そう言う現場って見たことありますか?」 早速優志の事をよく知っているという3年の男子に話を聞いていた。 「んー・・・アイツが浮気っつーのは考えらんねぇけど・・・」 「お前心当たりのある事は何でもいいから吐けよ?」 「おい矢野、それが人に物を頼む態度か?」 「・・・・・・すいません何でもいいから教えてください・・・」 こんなところでも相変わらず肩身の狭い思いをする爽也を横目で見てから、麗は小さく溜息をつく。 「何だよその”またやったよ・・・”みたいな溜息は!?」 「副会長は礼儀がなってませんよ。もう黙っててください。・・・で、何かお心当たりは?」 「みーずーさーわー?」 年下会長にズバズバッと言われた爽也と、けろりとした顔でそんな事を言ってのける麗と。 二人を交互に見てから不意に男子生徒がぷっと吹き出した。 「何かさ、二人って意外といいコンビだよな。この学校の名物になる日もそう遠くないんじゃない?」 「コンビ!?」 「悪い冗談はよして下さいね」 にっこりと微笑んだまま言う麗に、男子生徒は小さく謝る。 「あー・・・で、浮気の心当たりだっけ?悪いけど俺はそう言う現場見たことも聞いたこともないなぁ・・・。坂下は何かシャキッとしない奴だけどさ、だらしない奴ではないから」 男子生徒の言葉に、麗は頷く。 確かにいつも美夜に引っ付いているような良く言えば柔らかい、悪く言えば優柔不断にも見える優志だけれど、だらしない男には見えない。 多分これ以上この男子生徒を問い詰めても、返ってくる答えは同じようなものばかりだろう。 「クラブ中わざわざありがとうございました」 麗はそう言ってぺこりと頭を下げ、爽也と共に体育館を後にした。 それから二人は他の生徒にも話を聞いたけれど、どの内容も先ほどの男子生徒と同じようなものばかりだった。 「浮気じゃないんじゃないですかぁ?」 いろいろな人の、時には道からそれる話を聞きまわった麗は少々疲れ気味でそう言った。 「でも、それじゃぁ狩野が見たって言う女は誰だよ?」 「そんなの私に聞かないで下さいよ」 爽也の言葉をサラッと流した麗は、そのままムッと顔をしかめる爽也にくるりと体を向けて。 「それより副会長、ちょっと休憩しませんか?」 少しねだるように微笑んでそう提案してみる。 と、その瞬間わずかに爽也の顔が赤く染まって彼の視線が泳ぐ。 「・・・副会長?」 怪訝そうな顔で問い掛けた麗だが、爽也の視線はそこで思い切り逸らされ。 「俺・・・何か飲み物買ってくるから!!」 「はい?」 何故か急に挙動不審になった爽也にポカンとしていた麗を置いて、当の本人はその場から猛ダッシュ。 「え、ちょっ・・・・!」 全速力で駆けていく爽也の背中に声をかけてみたけれど、止まる気配はまるで無かった。 「変な人・・・・・」 思わずそう呟いて、麗は首をかしげた。 |