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● 私の彼氏は・・・・  ●

「ねぇ、アリサ。アンタの彼氏また問題起こしたらしいよ・・・」
私は午後の授業を終えてのほほん、と中庭を見ていた。でもその一声で一気に現実に引き戻される。
「えぇ!?」
またか・・・・と思いつつも私は驚く。友達の優美(ゆうび)ちゃんが「ホラ」と言いながら廊下を指差す。そこには確かに先生に抱え込まれて引きずるように連れて行かれる彼氏の姿が。
「あぁ・・・本当だねぇ・・・・。」
私はそれを見てなんとも悲しい気持ちになる。彼氏が連行されるなんていう話が一体どこにあるっていうの?
「でもアリサはもう見慣れちゃったでしょ?富樫先輩のあんな場面。」
「・・・うん・・・。」
私の名前は黒澤アリサ、高校1年生です。そして彼氏の名前は富樫隼人(とがしはやと)。この学校でも有名な学年が2つ上(3年生)の問題児・・・。格好はと言うと、典型的なヤンキー。学ランだってダラン、ってしてるし髪はいろんな色のメッシュ入っててツンツンだし耳にはいっぱいピアスついてるし。いかにも女慣れしてそう(いや、実際してるんだろうけど)な話し方だし。私達が付き合うきっかけになったのだって向こうがたまたまその軽い口調で声をかけてきたからで。そうでなければ何の接点もなかっただろうなー・・・ていうぐらい。
「はぁ・・・・。」
私はそんな先輩を見て思わず溜息をついた。
もう・・・なんでいつもいつも・・・!先輩そろそろ学習しましょうよぉ!
けれど私が落胆しているにも関わらず、私達の教室の前を通りかかった先輩は暢気にこちらに向かって手を振ると、
「アリサぁー♪」
なんて思いっきり私の名前を叫ぶ。
すると一斉にクラス中がザワザワと騒ぎ出した。
・・・・きゃー!!やーめーてーくーだーさーいー!!
しかもクラスの女子からの視線が痛い・・・っ!だって先輩、意外と人気があったりするんだもんっ。
「せっ、先輩・・・・また何やらかしたんですか?」
私はその場に居るのが我慢できずに、サッと廊下に居る先輩に駆け寄った。周りは「ラブラブだねぇ」なんてはやし立てたけどそんなものにももう慣れた。
「や、俺悪いことしてないべ?ちょい裏庭でタバコ吸ってただけ――」
「十分悪いじゃないですか!!」
平然としてそう言う先輩の様子からして絶対こりてない。懸けてもいい。何回同じことして連行されてんだか・・・。
「さ、夫婦の会話もそこまでだ。お前にはこれから生徒指導室でジ〜ックリ話を聞かせてもらうからなぁ?」
先輩についていた先生が青筋を立ててそう言う。
・・・・先生も苦労するね・・・。っていうかちょっと待って。夫婦じゃないよ!!
「あーダリィ。早く終わせてね?・・・・いでっ!!」
頭に手を回しながら軽口を叩いた先輩はついに先生に一発殴られる羽目に。そしてそのまま2人で言い合いをしながら指導室に消えていってしまったのだった。
「・・・・・・何だったんだろうね。」
いつの間にか私の横に立っていた優美ちゃんがポツリと呟く。
「さぁ・・・。」
私は苦笑しながら答える。だって先輩いつもあんなのなんだもん・・・。まともに会話した事なんて数回しかないよ?大体付き合いだしたのだって半分脅しだし・・・・。
「アリサー?アンタ何かとてつもなく遠い目してるよぉ?」
「はぅっ!?ごめん優美ちゃ〜ん。ちょっとね・・・昔の事を思い出してて・・・。」
「イヤ、16歳でその発言はやめようよ?」
懐かしそうに目を細めながらそう言う私に対して優美ちゃんが突っ込みを入れる。これはもう習慣になっちゃってる事。知らない間にクラスの名物なんかにもなってたりして。
「おーいそこの二人組み。乗り突っ込みはそれぐらいにして、そろそろHR始めるから席に着きなさい。」
『はーい。』
担任の先生にまでそんなことを言われ席に戻る。だけど言い方には嫌味がなくて、何だかんだ言いつつ私達を面白がってる感じ。
「黒澤さん?何だか嬉しそうだね。」
私が席に着くと、隣の席の岡田君がそう言って話しかけてきた。
「そうかなぁ?いやぁ、なんか楽しいなぁって思って。」
ヘラッと笑いながら答えると、岡田君は柔らかく笑って。
「ふーん。何か黒澤さん変わってるね」
「そうかなぁ?」
と、私達はこの後もこんな風に会話を続けた。岡田君は高校に入って席が近くなってから今までずっと仲良くしてもらってる。勉強なんかでも分からないところをこっそり教えてもらったり好きな曲が同じだったりと、以外に接点が多い。多分男子でこれだけ仲がいいのは岡田君が1番だろうなぁ・・・。
「あ、HR始まるよっ!」
「あぁ、そうだな。」
私達は話に夢中になっていて先生が教壇に立ったのを見逃すところだった。2人ともギリギリで前を向く。・・・セーフ・・・。
その後いつものように先生の話が始まる。大抵の時、私はこの話を聞いていない。ゴメンなさい先生。
私の席は窓がすぐ隣にあった。私はそこから見る景色が好きで、勉強で疲れたときなんかはすぐにその景色を眺めて心を落ち着けている。HRのときは先生には悪いけどいつもそう。
今日は1段と天気がいい。秋も近づく中、爽やかな風が窓から入ってくる。
あー気持ちー・・・。ふっと目を細めてその風を気の済むまで堪能する。本当この時間は癒しだよー。
・・・そー言えば先輩、どうなったのかな。
せっかくリラックスしていたのにふとそんな事を思い出してしまった。タイミングが悪いにもほどがあるよ・・・。生徒指導室かぁ。あんなところ私まだ入った事ないや・・・。(※大抵の生徒は入りません。)
どんなとこなんだろう?先輩反省してるかなぁ・・・。いや、してないだろうなぁ・・・。あの性格だもんなぁ・・・。
「ハァ・・・。」
外の景色を見ながらそんな事を考えていると思わず溜息が出た。何で私がこれだけ心配しなきゃいけないんだろう。
アホらしい、と思い気持ちを切り替えるために私は珍しくHRに参加する事にした。


「アリサ、帰るぞ。」
「はっ、ハイ!?」
HRが終わり、私は帰り支度をして優美ちゃんと仲良く話をしながら教室を出た。
出た・・・・・・のはいいんだけど・・・・。
「先輩!?」
校門まで来るとそこにはヘルメットを持った先輩が立っていた。相変わらずだらしなく着こなしている学ランが風になびく。こーやって見てるだけならカッコいいのに・・・。
「何驚いてんだぁ?今日は説教が意外に早く終わったからな。家まで送ってってやるよ。」
先輩は呆然と立ち尽くしている私に向かってニッと笑いながらそう言った。
「アリサ・・・私お邪魔みたいだし帰るね?」
横に立っていた優美ちゃんはそんな私達を見てニヤッと笑うとそそくさと校門から出て行く。
「え?ちょ・・・優美ちゃーん!!」
去り際の彼女の微笑みは「何なんですかそのイヤラシイ笑いは!!」と突っ込みたくなるほどのもので。そしてその去り方も思いっきり芝居じみていた。
私はどうしたらいいか分からずに呆然と優美ちゃんの去った後を見つめていた。すると先輩が持っていたヘルメットをいきなりこっちに投げて寄越す。
「わっ!?」
ビックリした私はどうにか持ち前の反射神経でそれを受け取る。
「ビックリした〜・・・何なんですか、もう!」
そして少しむくれ気味でそう言うと、先輩は楽しそうにそのピアスをジャラジャラと揺らしながら「帰るぞ。」と一言言って歩き出す。
「えっ・・えぇ!?」
このヘルメットは何なんですかー!!
そんな事を心の中で叫びながら私は仕方なく先輩の後を追った。それから数分後、自分がどんな災難に遭うかも知らずに・・・。
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