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● 私の彼氏は・・・・ --- 初めてのバイク ●

「きゃー!!止めてください先輩ぃー!!」
私は今、もの凄いスピードで走るものにまたがりながら絶叫していた。いや、無理矢理乗せられた・・・って言った方が正解?
「あ?風の音で良く聞こえねぇ♪」
「オーローシーテークーだーサーイぃぃぃぃ!!」
本当は聞こえているくせに、からかうようにそう言う先輩。私は本当に泣きながら夢中でそう叫ぶ。もの凄い風が顔に当たって髪がなびいた。
・・・・それもそのはず。私は今、先輩の運転するバイクに乗せられているのだから。
事は数10分前にさかのぼる。校門で先輩に渡されたヘルメットは、今になってみるとこのためだったんだと理解できる。きっとこんなことを優美ちゃんに話したら鈍感だとかなんとか言われるんだろうけど・・・。
「送ってってやるよ。」って先輩が言うからついて来たのに、学校の近くの駐車場に止めてあったのは1台のカッコいいバイク。先輩はそれを見て誇らしげに「乗れ。」と言った。命令口調だから私は断れない。
仕方なく渡されたヘルメットをかぶりながら後部座席にまたがった私を確認すると「うっしゃ!」と言って先輩がエンジンをかける。ブオォォン、というもの凄い音がしてそれが正常に働いていることを物語る。
っていうかコレ・・・良く暴走族の人たちが乗ってるのと同じに見えるんだけどなぁ・・・。
「先輩、免許持ってますよね!?」
「ったりめぇだろ馬鹿!!」
切実な私の質問に対して先輩は少しむくれながらそう答える。
だって・・・この人なら無免許でも運転しそうなんだもんっ!!
「よし。じゃぁ出すぞ。しっかり捕まってろよー!!」
それなのに私の心配なんか気にもしないで、先輩がバイクを走らせる。
「えっ?わぁぁぁぁ!!」
いきなり発進したバイクのせいで、案の定私は危うく転倒しそうになった。けれどそれをどうにか阻止して、必死で先輩に捕まる。
はぁ・・・・良かった・・・。私まだ、生きてる!っていうかコレありえないから!!
「だからちゃんと捕まってろっつったべ?」
そんな私をチラッと見ながら意地悪そうな笑みを浮かべて先輩が言った。そんなこと言われたって・・・あなたはいつも強引なんですっっ!!
そして今、私はどんどんスピードを上げていく先輩に必死で捕まりながら叫んでいる。免許を持っているにも関わらずにこの荒々しい運転はいつか事故を起こすだろうと予感させるものだった。
私・・・・生きて家に帰れるのかなー・・・・・。
「落ちますー!!」
と、またスピードを上げた先輩の耳元で私は必死にそう叫ぶ。どれだけ大きな声を出しても風に全部さらわれて行ってしまうため、こうでもしないと声が届かない。
「落ちたら落ちたときだな。」
私の必死の訴えもむなしく、先輩はニヤリと意地悪く笑いながらそんな事を言う。
この人・・・・命の重みってもんをみじんも感じてないよ?
「白状物ぉ・・・・」
私は涙声で呟いた。
「落ちたくなかったらもっとしっかり抱きついてろよ。」
そっ・・・・・そんな恥ずかしいこと出来ませんよぉ・・・!!いや、でもこのままだと私・・・本当に落ちるっっ!!
ギュッッッッッッッ。
自分の命の方が大事だと悟った私は、やむを得ず先輩に抱きつく・・・じゃなくてしがみついた。そんな私の様子をチラッと見た先輩はと言うと。
「そこまで抱きつかなくても落としたりしねぇよ。」
なんて言いながら笑って私の腕に触れた。まるでそうやって安心させるかのように。この人は変なところで優しかったりするのです。
でも・・・・。
「先輩っ、手!片手離さないでくださいぃぃー!!」
安心するけどやっぱり命の方が大事な私は慌ててそう言う。こーいうのが命取りになったりするんだよ!
「お前はイチイチうるせぇなー!」
私の忠告を素直に聞き入れるはずも無い先輩は鬱陶しそうにそう言いながらもちゃんとハンドルを握りなおす。
ホッ。とりあえずこれで安心・・・。
「で、アリサの家ってどこら辺?」
「・・・・・・・・・先輩、そんなことも知らないで送ってやるって言ったんですか?」
数分後、私は先輩のそんな言葉にため息をつきながら肩を落とした。全くこの人は・・・後先考えてない。そして私はいつも振り回される。
・・・・なんだかなぁ・・・・。
「まぁいいや。このままドライブと行くか?お嬢様。」
私の問いかけには答えず、先輩はニッと笑ってそんなことを言った。それはそれは意地悪い笑みで。
「やっ・・・バイクでドライブなんて嫌ですー!!」
私は素直にその提案を却下する。先輩はそんな私の姿を見て満足そうに笑った。
絶対私この人にいいように扱われてる。絶対そうだ!!
「まぁそこまで嫌がるんなら・・・・しゃーねぇな。後数キロ行った所で止めてやるよ。」
表情だけ残念そうにして先輩が言う。でも内心絶対楽しんでる。この人はいつだって人の反応見て楽しんでるんだっっ!!
「・・・・・・・その方がいいです。」
仕方なく私は脱力しながら答えた。家に帰るのにこんなに疲れるのは初めてだよ・・・。
「じゃぁあと少し我慢しろよ。手離したら即落ちるからな〜♪」
「ひぃぃぃ!!」
そして最後に、とどめの様な先輩のその一言で私はもう1度強く彼に掴った。
黒澤アリサ16歳、もう2度とバイクなんて乗りたくありません。
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