モドル | ススム | モクジ

● 私の彼氏は・・・・ --- 優しさ ●

「こんな事でバテるなんて・・・・根性ねぇなーアリサは。ほれ。」
「ヒャッ!?」
私は先輩が運転していたバイクから降りると、ヨロヨロと歩いてその場にしゃがみ込んだ。すると背後からは先輩の楽しそうな声。
全くあの人は!!仮にも「彼女」が弱ってるときにそんな楽しそうにする!?・・・・まぁあの人だからしょーがないか・・・。
しかもしかも。
「冷たい・・・・・」
そう。首筋に冷たいものが。驚いて弾かれたように振り返った私の目に飛び込んできたのは、缶ジュースを持った先輩の姿が。
「あげる。」
「あ、ありがとーございます・・・。」
そしてニコニコと笑いながらそれを差し出してくる先輩。私は立ち上がって小さくそう言った。
もしかしてこんな人でも私のこと気遣って・・・くれた?
「え?何?聞こえなーい。」
・・・・わけないか。悔しいけどお礼を言った私に対してヘラヘラそう言う先輩からは、そんな優しさなんてみじんのかけらも感じられない。
やっぱり私・・・からかわれてるっ!!
「ありがとーございますー!!」
意地になった私は思いっきり声を張り上げてもう1度そう言った。
全く・・・人のことからかって楽しむんだもんっ。やっぱり最低だぁ!
だけどそんな私を見て先輩はお腹まで抱えてさも可笑しそうに笑いながら、
「そんな真剣になるなんてやっぱアリサはおもしれぇな〜。」 そう言った。

ムスッとした表情で缶ジュースを空けた私を見て先輩は笑いながらポン、と頭を叩いてくる。
「・・・なんでそこで面白いって事になるんですか。可愛いとかは言ってくれないんですね。」
子ども扱いしてくる先輩を下から睨んでそう言った私に「それは無理。」と軽く言う先輩。あんまりムカついたから1発殴ったけど・・・。私って結構度胸あるよね。学校1の不良だもん・・・この人。
「いってっっ!!お前本気で殴るか!?」
「殴ります。」
痛そうにうずくまる先輩に即答する。
何か・・・立場逆転。これはいいぞ自分!
「先輩が悪いんですよ?」
そうして最後にそれだけ言う、と私は持っていたジュースをグビっと一気に飲み干した。
はぁ〜。満足満足。
「なぁアリサ・・・・・。」
恨めしそうな顔でそう言った先輩に「何ですか?」と私は尋ねる。
「帰りのバイク、とばすからな。」
すると先輩は「仕返しだ」とでも言うように怖い顔でそう言った。
「そ・・・それは嫌ですっ!!」
ついさっき出来てしまった私の弱点をあなたはこー言うときに使うんですかっ!!
私は心底自分の彼氏に失望したけれど・・・なにせこの人ですから。
「俺のモットーは”やられたら倍で返す”だからなっ。」
子供みたいにそう言った先輩だけど顔は本気だった。いやだけど、倍って――
「倍は嫌ですー!!!」
私は必死で目の前の先輩に訴える。
「悪魔だっ!!」
そして自分も子供みたいな事を言う。こんなことしか言えない自分って・・・情けない・・・!
「悪魔?上等じゃん。」
だけど調子が戻ってきた先輩はニッと笑いながら腕を組みそう答える。
うっ・・・・ヤバいぞ。風向きが変わってきた感じがする!!
「・・・ゴメンナサイ。私が悪かったです。だからバイクはゆっくりでお願いします・・・・。」
結局最後は負けてしまった私。この際意地を捨てて伝えたいことを伝えておく。この人の前じゃ自分はあまりにも無力だ。
「でも最初は先輩が悪いんですからねっ!?」
だけど最後にはちゃっかりこんな文句つき。だって付き合おうって言い出したのは何を隠そう先輩の方なんだし「可愛い」ぐらい言ってくれてもいいじゃんっ!!私だってそれなりにみんなから可愛いって言われてるんだからっ・・・!!
「へぃへぃ。全くそーいうすぐ真剣になるとこは・・・・・・・」
先輩はそこまで言うと少し黙り込む。
「なるとこは?」
私は続きが気になってそう繰り返す。
「アリサの可愛いとこだよな。」
すると先輩は、いつもの人をからかうような笑顔になって・・・私の欲しかった言葉をくれた。
「・・・・・・・。」
こんなところで「可愛い」と言われると予想していなかった私は何も言えないまま突っ立っていた。それも先輩を見上げながら、顔真っ赤で。
「何?言って欲しかったんだろ?可愛いって。こんなところで照れるなんて全くアリサは可愛いな〜。」
「なっ・・・何回も言わないでくださいー!!」
ニヤニヤと笑いながらそう言って来る先輩は明らかに人で楽しむモードに入ってしまっている。
そりゃぁ私だって言われたかったけど・・・・何回も言われると恥ずかしいじゃんっ!!
反論する私を見て楽しそうにケラケラと笑う先輩の耳についていたピアスが、ジャラジャラと揺れた。
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2004 All rights reserved.
  inserted by FC2 system