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● 私の彼氏は・・・・ --- ハプニング ●

それは、私が初めてバイクドライブを体験した次の日の事だった。
――「アーリサっ!」
朝イチでそう声をかけてきたのは優美ちゃん。
「あ、優美ちゃ〜ん。おはよ。どーしたの?そんなニヤニヤした顔して・・・。」
自分でだんだん語尾が小さくなるのを感じつつもそう訊ねる。自分で聞いといてなんだけど、優美ちゃんのこの笑いの理由を知るのが少し怖かったから。
「んふふ〜♪何とぼけちゃってんのアリサ!昨日アレからどうしたのよ?」
「え・・・?アレから・・・?」
ホラ来た。やっぱりこれが目的だったんだね、さっきの笑いは・・・。
私はわざととぼけてそう返した。でも優美ちゃんは私なんかよりずっと鋭い。
「誤魔化しても無駄!何があったのか全部話してもらいますからねー」
・・・・優美ちゃんが怒ったときのお母さんみたいな台詞言ってるよぉー・・・・。
「べっ、別に何も無かったよ?」
期待に満ちた目で見つめてくる優美ちゃんに私は慌ててそう言った。でもそれで納得するはずない優美ちゃんは、
「何も無かったわけないでしょ!?お持ち帰りされたんだから!!」
ぎゃー!!お持ち帰りとか言わないでー!!
「ななななななな、何言ってんの優美ちゃん!?」
こんな恥ずかしい事を普通にクラス中に聞こえる声で優美ちゃんが言うもんだから、私は完全にパニックに陥った。あたふたとしながら顔真っ赤でそれだけ言うのが精一杯。
すると、私のそんな態度を面白がった優美ちゃんは今度はわざと私にだけ聞こえる声で。
「でも・・・・チュウぐらいはしたんでしょ?」
ぷすー。
私は自分の中から大量の空気が抜けるのを感じた。同時に頬の赤らみも。
「あ、アリサ放心状態になっちゃった!」
耳元では楽しげなそんな声が聞こえてくる。
チュウ・・・・・・チュウって・・・・・・・・キス・・・・!?
「キスなんてしてないよぉ!!」
数秒後、正気に戻った私は思いっきり優美ちゃんの背中をばーん、と叩く。
・・・と、その時。
「キスがどーしたってぇ?」
聞き覚えのある声が耳に入る。アレ・・・・でもこの声の持ち主は今別の階に居るはず・・・。
そう思いつつ、恐る恐る声のした方を振り返る。そしてそこに居たのは・・・あぁ。この人が真面目に自分の学年の階だけで留まってるわけないですよね・・。
「先輩・・・・・・。」
やっぱりそこに居たのは先輩だった。
「なぁアリサ。キスがどーしたって?」
「・・・や、何でもないですから!!」
ポツリとそう呟いた私に、先輩は何故か気持ち悪いほどの笑顔でそう問いかける。
そっ・・・そんな何回もキスって言わないでぇー!!
私の隣ではこの展開を明らかに面白がって見ている優美ちゃんの姿が。ったく・・人が困ってるときに!
「あ゛ぁ?もしかしてお前俺というものがありながら他の奴と浮気してんじゃねぇだろうな?」
「そっ、そんな事ないですよ!!!」
そろそろ教室に居る何人かが先輩の存在に気づき始めた頃、微妙にすねモードに入った先輩がそんな事を言うもんだから私は慌てて否定する。
あぁ・・・私の学校生活がどんどん崩れていくっ・・・!!
頭を抱えたいほどややこしい展開に私はつかの間の現実逃避をする。何処か・・・静かな場所を思い浮かべよう・・・・。
そう思ったとき。
「富樫先輩、彼女困ってますよ。からかうのやめてあげたらどうですか?それにあなたの階はここじゃないっすよね。」
そう言って間に入ってくれた一人の人物が。
あぁ神様!!まだ私の事を見捨ててはいなかったんですね!
そう思って私は顔を上げた。するとそこに立って居たのは、
「あ、岡田君。」
紛れもなく私の隣の席の岡田君。
彼は私の声に振り返り、ニッコリ笑って「おはよう」というとまた先輩に向き直る。先輩はというと。
「は?誰お前。今俺はアリサと話してんだけど。」
・・・・メチャクチャ不機嫌ー!!
やばいぐらい怖い顔で岡田君を睨んでそう言った。しかも教室中のほとんどの目は私達に注がれている。
あぁ・・・・・・・穴があったら入りたい・・・!
けれど、こんな状況でも優美ちゃんは「ドラマみたいな展開だぁー!」なんて小声で呟いて楽しんでいる。
・・・・ある意味凄いよ、優美ちゃん・・・。
でもそろそろこの二人のにらみ合いを止めないとまずい状況になってきた。もうHRも始まるし・・・・。
「せっ、先輩!そろそろ教室に戻らないと先生来ちゃいますよ!」
私は必死でそう言って先輩の腕を掴む。それでもまだ岡田君とのにらみ合いは続いたまま。
「そうですよ。自分の彼女がこんなに困ってるのに彼方はまだ自分の我侭を通すんですか?」
必死の思いで先輩をどうにかしようとしている私の苦労を消し去るかのように、岡田君がそう言った。
もう・・・・頼むから油を差すようなこと言わないで・・・。
それに絶対先輩がまた何か言い返すだろうし・・・・って、アレ?
私の予想は見事に外れてしまった。岡田君の言葉を聞いた先輩は、数秒彼を睨んだあと「チッ」と舌打ちして私達に背を向ける。
何か・・・・意外とあっさり帰った――
「アリサ、ちょっと来い。」
・・・ワケ無かった。
数歩歩いた後クルッと私の方を振り返り、不機嫌な顔のままでそう言う。そんな顔で言われたら断れないじゃないですか・・・・・!
そう思いながら私は渋々先輩に駆け寄る。と、次の瞬間。
――チュっ。
唇にふわっと柔らかいものが当たったと同時に、そんな音が聞こえた。そしてクラス中からはもの凄い歓声が。
「――っ!!?」
数秒後、やっと自分の身に何が起こったのかに気づいた私は慌てて口に手を当てる。そして声にならない悲鳴を上げた。そんな私を見た先輩はニッと悪戯っぽい笑みを浮かべて颯爽と立ち去ってしまう。
って、待ったー!!私・・・・・かなりの観衆の前でキスされた!?神様・・・・・私はあなたに何か気に食わない事でもしましたでしょうか・・・!?
そう思いながら私はその場に呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。そして急激にに体温が上がっていくのを感じる。
先輩の馬鹿ーーーー!!!!!
・・・・心の中で、そう絶叫しながら。
この後私達の事は、たちまち学年中に知れ渡る事になる。そして私は延々と先輩との馴れ初めを聞かれる羽目になるのだった。
あれ?でも・・・・・どうして岡田君があんなに必死で私の事かばってくれたのかなぁ?普通の人なら先輩のあの睨みを見た瞬間震え上がって逃げていくはずなのに・・・・・。
まぁ・・・事は収まったんだから、いっか。
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