第5話 思ってもみなかったこと―1
「俺の女」
 そう宣言されて普通に奴に接してられるほど大人な女ではありません。だから・・・
『今日はユメ達と待ち合わせしてるから早めに学校行く。』
 こんな置手紙を残して家を出てきましたよ。えぇ、もうそりゃぁ早い時間に。
 だって今6時過ぎ。
 だっはぁー!!どう考えても自分馬鹿じゃん!?でもでも、こうでもしないとまともに顔なんて合わせられないし・・・!!
 大体元を辿ればいきなり変な事言い出したアイツが悪いんだからねっ。何で私がこんな気使わなきゃいけないんだよー・・・。
 でも支度をして家を出てきたからには・・・行くところは1つしかないでしょう。
「学校・・・行こ・・・」
 まだ誰も登校していないであろう学校に向かって、一人むなしく歩き出した私だった。

「おはよーなっチャン!」
 学校に来て皆を待つ事約2時間。いや・・・本当は寝てたんだけど・・・。
 急にそう声をかけられた私はビクッとして机に伏せていた顔を上げる。
「ゆ、ユメ・・・・。おはよう」
 そこには幼馴染(らしい)のユメが立っていた。
「どーしたの?何か凄い寝起きっぽいけど・・・・」
 ハイ。明らかに私は寝起きです。
「いやぁ・・・ちょっと今日は6時過ぎに学校に着いちゃってねぇ」
「6時過ぎ!?」
 へラッと笑いながらそういうと、ユメは相当驚いたような声を上げる。
「な、何で!?っていうか誰も居ないよその時間!!」
「アハハ〜。分かってるよそれぐらい〜」
 何かどさくさに紛れて馬鹿にされたような気が・・・。まぁこれぐらいでカチンと来る様な私じゃないけどね。
「事情、聞いてくれる?」
 甘えるような声でそう言ってユメを見つめる。今のところこんな話できるのユメぐらいしか居ない。海道は問題外だし・・・それに、私と疾風の昔の関係も知ってるかもしれないしっ!!
「え?なっチャンの頼みなら何でも聞くよ?」
「ありがとー!!」
 ユメは天使だねっ!!何で私こんないい友達のことまで忘れちゃったんだろう?
「実はねぇー!!」
 頭の中グチャグチャだったけど、急展開過ぎて。でもそれでも一生懸命整理しながら私は昨日の事をユメに打ち明けた。
「ねぇ、私がそのー・・・アイツと付き合ってたって本当なの?」
 最後にはちゃんとこんな質問もして。
 私が話し終わった後、少しだけ考えるようなしぐさをしたユメは急にぷっと吹き出す。
「さっすが疾風さん!相変わらず独占欲強いね!」
「え・・・っ!?」
「本当見直しちゃうよー」
 いや・・・別に見直さなくても・・・。それに独占欲強いユメなんて見たくないぞ!?
「ね、ねぇユメ・・・」
 早く真実をぷりぃず・・・・・。
「本当だよ」
「え!?」
 急に来たなオイ!!つーかちょっと直球過ぎるよっ!
「えーっとそれはつまり・・・・」
「なっチャンと疾風さんが付き合ってたってことー」
 ・・・マジですか!!
「な、何で!?そうなったきっかけは?経由は!?」
「いや・・・そんないっぺんに聞かれても私分かんないよ」
 思わず身を乗り出してそう問いかける私に困ったような顔をするユメ。
 は・・・はは・・・。そりゃぁユメが全部知ってるわけないよね・・・。
「あ、でも疾風さんはなっチャンのご近所さんでお兄ちゃん的な存在だったってことは知ってるよ」
「へ?」
 アイツが私のご近所さん・・・だったの?しかもやっぱりお兄ちゃん的な存在?
「・・・・・・ん?」
 ふと私の頭に最大の謎が浮かび上がり、思わず声が上がる。
「どうしたの?」
 難しい顔をしている私を覗き込むように見るユメ。そんなユメを見つめ返し、私は問いかけた。
「ねぇ・・・私の両親は・・・何処に居るの?」
 その瞬間、ユメの顔がわずかに強張る。
 ・・・・・・シーン。
 あぁ・・・最近こう言う変な間にも慣れてきたぞ・・・って、何でこんなに間が空くんだ?
 そう思って、私は私の顔を凝視しているユメに声をかける。
「・・・ユメ?」
 すると、ハッと我に返ったようにユメが瞬きをする。
「あ・・・ごめんごめん。もしかしてなっチャン、疾風さんから何も聞いてないの?」
「うん。何1つとして」
 気持ちいいぐらいキッパリとそう答える私から視点をずらすユメ。
「嘘・・・」
 信じられない。そんな声でユメが呟くものだから私は両親のことが気になって気になって仕方ない。っていうか今までその存在を忘れてたのもおかしな話だけど・・・。でも全然考えた事もなかった。まるでそれが「居ない」ことに慣れてしまっているかのように。
「なっチャン・・・・ご両親の事知りたい?」
 数秒俯いていたユメが不意に顔を上げ、私にそんな質問を投げかけてくる。
 そりゃぁ最初にその話持ち出したのは私だし、知りたいのは当たり前。
「うん」
 私は思いっきり首を縦に振った。その様子を見たユメは
「これ全部、前になっチャン自身から聞いた話なんだけどね・・・・」
 と、少し声を潜めて話し出した。
 何だろう?周りに聞かれちゃやばいような両親だったのか?・・・んなわけないよねぇ。
 馬鹿げた想像と想いが浮かび、それを心の中で笑い飛ばす。
 何の根拠もなく「そんなわけない」と。
 けれど次の瞬間、私はユメの口から発せられた言葉に凍りつく事となる。
「なっチャンのご両親は――・・・・」

 その言葉が、信じられなかった。

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