第5話 思ってもみなかったこと―2
「なっチャンのご両親は――・・・なっチャンが小さい時に交通事故で亡くなられたんだって・・・・」
・・・嘘・・・・・。
私はその言葉が信じられず、ただ呆然とユメを見つめる。
「交通事故・・・・?」
ゆっくりと、もう1度そう聞き返す。
ユメが静かに頷いた。声を潜めたのはこのせいだったのか、なんてどうでもいいようなことを理解する。
でもハッキリ言って、今何がなんだか分かんない。頭真っ白です。
え?っていうか私交通事故に縁ありすぎ?もしかして呪い!?
・・・・・ハハっ・・・笑えねぇ・・・・。
「なっチャン・・・っ」
黙り込んでいる私に心配そうにユメが声をかける。そんなユメに私はとりあえず笑って答える。
「大丈夫」
まだ笑える余裕なんてあるんだー、なんて思いながら。でも・・・不思議なことに悲しいとか寂しいとか、そういう気持ちはあんまりない。まるでそれは、遠の昔に忘れてきたかのように。
いや・・・・突然すぎて気持ちが麻痺してんのか?これでもう少し落ち着いてきたら涙が滝みたいに出てきたりしてねー。
・・・・・・・やっぱ笑えない・・・。
「ねぇユメ」
私はまだ心配そうなユメに声をかける。
「私の両親が交通事故に遭ったのって、私が何歳ぐらいの時か分かる?」
その言葉にユメは少し考えるようなしぐさを見せてから首を振る。
「ごめん、分かんない。でも私がなっチャンと出会った頃はもうなっチャンのご両親は亡くなってたみたいだよ」
「そっかぁ・・・・」
・・・・・ん?
今頭にぴっかーんって来たんだけど・・・・
私その間どうやって生活してたわけ?まさかドラマとかで良くあるような親戚に預けられてたり?はたまた孤児院!?
・・・・・それはちょっとヒドイよぉー・・・・・・。
「な、なっチャン?」
一人妄想して嘆き悲しんでいる私にさっきよりもっと心配そうな目を向けるユメ。・・・アハハー。そんな哀れむような目を向けないでー。
「・・・大丈夫」
何が、何処が大丈夫なんだ、とか一人で突っ込みを入れながらもこう答えるしかない自分が情けない。
「あ」
い、今!!再び私の頭にぴっかーんと何か来ました!!えーっとえーっと・・・
「じゃぁさ、ユメ!私いつ頃から奴(疾風)と一緒に住んでたのか分かんない!?」
さっきまでのしょぼくれようは何処へやら。私は身を乗り出して少し退き気味のユメにそう質問。
そんな私に僅かに苦笑を浮かべたユメはと言うと、
「えーっとね・・・確かぁー・・・中学に上がる前だったと思うよ」
と、記憶を辿って辿って答えてくれた。そして
「嘘!?」
ユメの言葉を聞いた私の声が教室に響き渡る。いわゆる絶叫、と言う奴ですか?
「何で?え?いいの?そんなの・・・奴はお年頃の女の子を引き取れる分際か!?」
「アハハ・・・」
今私の頭の中は、両親が交通事故で亡くなったって聞かされた時よりもパニック状態。
ちょっと待てよー・・・。中学1年生っていうと・・・13歳か。で、疾風はそれよりも6歳上だから・・・・19か!?19で年頃の女の子を引き取ったのか!?
何か・・・ヤバイ香りがしないデスカ・・・?
「あ」
と、そこでユメが声を上げる。
「どうしたの?」
「いや・・・なっチャンに言ってなかった事がまだあるんだけど・・・」
早く言おうよ!
「何なに?」
急かすようにそう聞くと、ユメは少し苦笑して答える。
「あのね、何か疾風さんのところもワケありの家庭だったみたいでご両親はほとんど家にいらっしゃらなかったらしいから・・・・実際その頃からなっチャンと疾風さんの二人暮しのようなもんだったんだよ」
「・・・そう・・・・なんだ」
アイツのとこもワケあり・・・か。もしかしてそのせいであんな歪んだ奴に?
まぁ、まだ付き合い浅い私がとやかく言えることじゃないけどね・・・。
「何か・・・いろいろ教えてくれてありがとね、ユメ」
「え?いいよ別に。元々なっチャンから聞いたことなんだしね」
そう言ってユメは笑った。つられて私も上辺だけの笑みを浮かべる。
でも、何か今は笑える気分じゃない。疾風の事を聞いてから・・・胸の奥がもやもやする。
ハッキリしたことは分かんないけど、自分のことよりも何よりも。
今アイツから、離れちゃいけないような気がした。