第6話 ハプニング―1
 あー眠い眠い。
 結構な大きさの欠伸をしながら私は学校に向かっていた。
 昨日は幼馴染の銀ちゃんがウチに来たり両親の話を聞いたりで結局少ししか眠れなかった。
 でも1番の原因はやっぱり疾風だよね。
 アイツは・・・何であぁストレートなんだか・・・。途中まで危うく流されかけたじゃん!
 まぁそのあと正気に戻って急いで自分の部屋戻ったけど・・・。
 明らかに動揺してるのばればれだな、あれは。
 何か・・・また1つ弱みを握られた気がする・・・。
「麻生ー!」
 もう1つ大きな欠伸をして、ダラダラと歩いているとそんな声が聞こえてきた。
 えーっと・・・誰だったっけこの声は・・・
「あ、何だ。海道か」
「何だって何だよ!?」
 誰だろう、と思って振り返るとオレンジの物体が視界に入ってきたのですぐさま前に向き直る。すると、私の言葉に敏感に反応した海道はショックを受けたような声を出す。
「ごめん、私寝不足だから機嫌悪いんだ。あんまり騒がないで」
 ちゃっかり隣で歩き出した海道に冷たい言葉を投げかける。睡眠の足りてない私は本当に気が短いらしい。
「んな事分かってるって。前のお前だって寝不足のとき相当機嫌悪かったからさ。俺そのせいで今まで何回蹴り入れられたことか・・・・」
「っていうか学習しようよ」
 全くこいつは馬鹿かっ。
 何度も蹴られる前にちょっとは静かにしろっつーの!!
 まぁ今そんなこといっても遅いけどね。
「なぁ・・・・麻生」
「何?」
 人通りの少ない朝の道。そんな所で、まるで誰かに聞かれないように声をひそめて海道が口を開く。
「お前・・・・最近大丈夫か?」
「へ?」
 唐突にそんな事を切り出され、私の顔は見事にポカンとなる。
「大丈夫って何が?」
「いや・・・だからその・・・・」
 だぁっもう!!ただでさえ気が短い私の前で話をじらすな!!
「えーっと・・・疾風・・・さん。上手くやってるか?」
 イライラとしながら先が話されるのを待っていると、やっぱり唐突にそんな事を尋ねてくる。
 しかもその顔が、いつもとは何か違う。
「あー・・・とりあえず大丈夫・・・っぽいけど」
 語尾が怪しくなりつつ、私はそう答える。
 大丈夫、なんて言い切られる訳ないじゃん。いや、いつ襲われるか分かんないし・・・。
 でもそんなことをこいつに話せるわけもなく、アハハーと誤魔化し笑いを浮かべておく。
「・・・・そっか。ま、それならいーんだけど」
 私の返答に微妙な顔をして、海道は歩調を速める。
 そんな奴の横顔を私はしかめっ面で見る。
「何で急にそんな事聞くわけ?」
 絶対いつもの海道じゃない。
 こんなしおらしい奴・・・いつものあの馬鹿海道じゃないって!
 けれど私の問いかけには答えず、海道は急に話を変える。
「あ、悪い。俺これから朝練あるから先行くわ!」
「え?ちょ・・・ちょっと!!」
 アンタは何部だったっけ!?っていうか今から行ってももう時間ないって!!
 いやそうじゃなくて・・・・
 話を流すなー!!
「・・・・何アイツ・・・!?」
 最近口癖になってきていると思われるその言葉を吐いて、走っていく海道を見送る私。
 あ・・・足結構速いんだ。
 そんなどうでもいいことを思いながら私は軽く首をかしげて歩き出した。

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