第7話 新たな家族
「はーやーてー」
夕食を作り終え、未だソファーで眠りこけている不真面目社会人にそう呼びかける。
が、反応なし。
・・・いつまで寝てんだこのやろぅ・・・。
「起きて!つーか起きろ!夕食の時間ー!!」
・・・・やっぱり反応なし。
何この人!?人がこんな至近距離で叫んでんのに聞こえないのか!?
・・・・・こうなったら、最終手段行っちゃう?
ニッと不適な笑みを口元に湛え、私はゆっくりと右足を高〜く上げる。そして・・・
「とぅっ!」
「・・・・・・っっ!?」
それを一気に、疾風に蹴りおろした。って言っても急所は外してるから大丈夫。(・・・だと思う。)
どうやら私の蹴りがクリティカルヒットしたらしい疾風は、目を覚ますなりソファーの上で何かの虫みたいにうずくまっている。
「あはは。やっと起きた」
「那智っ・・・・”あはは”じゃねぇぞテメェ・・・!!マジ痛ぇっ・・・」
微妙に涙目でこちらを睨みつけながらうずくまる疾風の言葉は無視して・・・・
「夕飯、もう出来てんだけど。いつから寝てたの?不真面目社会人」
にーっこりと笑いながらさり気なくそう問い掛ける私。相手は私の言葉にきょとん、とした顔をして、それからすぐに壁にかけてある時計に目をやる。
そして・・・
「・・・・あぁ!?」
かなりの睡眠時間に、驚愕の声を上げた。
――「今日は仕事が早く終わったから、上司の誘いとかも全部断って帰ってきたんだよ」
むすっとしながら箸を動かし、疾風がそう説明した。
どうやら私の蹴りが本当に相当効いたらしく、何だか申し訳なくなってくる。
って言ってもそんな事で怯むような私じゃないからあえていつもの調子で話を皮肉ってみる。
「何で帰ってきちゃうの?付き合い悪いって思われるよ」
すると、疾風は箸を止めジッとこちらを見つめてくる。・・・と思ったらすぐさま渋面を作ってわざとらしい溜息をついた。
「誰かさんが一人で留守番は寂しいだろうからわざわざ帰ってきてやったのになぁ」
「・・・何で”わざわざ”強調すんの。別に私は寂しくなんかないしそんな事言った覚えも無い!」
奴の人を妙に馬鹿にしたような口調にムッとしたお子様な私は、まんまとその言葉に引っかかって反論する。
が、悔しいけど大人な疾風は今までの渋面とは打って変わった不適な笑みを浮かべる。
「誰もお前の事なんて言ってないだろ?もしかして自覚してたり?」
「・・・・」
疾風の馬鹿野郎ーーー!!
ウザイよムカツクよ悔しいよー!んで、まんまと引っかかって馬鹿みたいに否定する自分も馬鹿だぁー!
でもさぁ、こっちにも一応言い分っていうもんんがあってね!?
「誰かさん、って言うからてっきり私のことだと思ったんだもん!大体この家には私と疾風意外に誰も居ないじゃん!?」
もし居るならそれは幽霊か無断で人の家に住み着いてる怪しい人だけだ!
・・・そんなの居たら怖いけど。
こればかりは否定できないだろうと、自信満々で言い切った私。けれど相手は「どうかな」なんて言いながら笑った。
「・・・何?何かいるの?え、まさか同居人?」
「アホか。どんだけ人から隠れるのが上手い奴なんだよ」
私の真剣な言葉に呆れた様に言って、疾風は立ち上がる。
あのー・・・まだご飯途中なんですが?しかも今サラッと「アホか」って・・・
「ちょっと待ってろよ」
・・・俺様プラス命令口調だし。
「・・・何する気?」
「見れば分かる」
不安いっぱいの目で問い掛けると、口調同様俺様な笑みを浮かべて疾風はどこかに行ってしまう。
・・・・あれー・・・・。何かそんな言葉残されると物すっごく不安なのですが。
箸を置いて、私はそわそわしながら奴が戻ってくるのを待った。
そして、数秒後。
「・・・・・・・・」
私は疾風の腕の中に居る”それ”を見た瞬間、文字通り目を丸くした。
ほわほわとした柔らかそうな毛。触ると気持ちいいんだろう、とかそんな事を頭のどこかで考えていると真っ黒な瞳がジッとこちらを見てくる。
これってもしかして・・・いや、もしかしなくても・・・・
「犬ーーーーっっ!?」
バッ、とその場に立ち、即座に疾風に駆け寄る。
私が動くと奴に抱きかかえられてる犬の目も一緒に動く。
「何これ可愛いー!!めちゃくちゃ可愛いー!」
目の前の子犬(らしきもの)に触れながら叫ぶ私に
「だから見れば分かるって言っただろ」
と、自信満々に言う疾風。
いやでも兄さん。こんなの予想外ですって。
「ねぇ、これどうしたの?っていうか今までこんな可愛い子を何処に隠してたの!?」
「・・・人を誘拐犯みたいに言うな。会社の同僚に貰ったんだよ。子犬が生まれて飼い手探してるって言うからさ。お前が帰って来たときに驚かせようと思って部屋においてた」
おいてたって・・・・物じゃないんだからさぁ。
「・・・・で、飼うの?」
ちゃっかり疾風から子犬を奪い、しっかりと抱きながら期待に満ちた眼差しを向ける。
子犬の毛が腕に触れて、おまけに何か舐められてるみたいでくすぐったい。
疾風は苦笑して答えた。
「まぁ貰ってきた以上はな。飼えるだけの余裕もあるし」
「やった!疾風サン最高!」
「調子のいい奴・・・・」
疲れたように言って、でもすぐにその顔を穏やかな笑みに変えて。
それから疾風は、大きな手を私の頭に置いた。