第2話 見慣れない場所―2
山本疾風23歳、IT関係の会社に勤める黒髪と睨まれたら絶対怖そうな目が特徴の、まぁ、カッコイイと言うものに分類されるまだまだ謎多き男。
そして記憶喪失前の・・・・私の同棲相手デス。
「じゃぁ行ってくるから」
「・・・行ってらっしゃいませ」
「敬語やめろ」
「・・・・行ってらっしゃい」
疾風に引き取られて2日目の朝。私は今渋々仕事に行く奴を見送りに玄関まで出てきている。
何でこうなったのか分からないけれど、住まわせてもらっている以上見送りぐらいしないとなんだか気が引ける。
でも本当のこと言うと・・・今にも目の前のこの平然としている男を殴りたい衝動に駆られてます。
だって昨日・・・・何!?不意打ちついて何も覚えてない私にキス・・・したのよ!?
信じられないっ・・・・!!
「・・・那智?」
当の本人は険しい顔で自分を睨んでいる私に心配そうに声をかける。
コイツ・・・・絶対昨日の事何とも思ってない・・・・。
そして何を思ったのか、ニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
「心配すんなって。なるべく遅くならないように帰ってくるから」
「なっ・・・・・!?」
かっ・・・・・・勘違いすんなぁ!!
寂しくなんかないわよ!っていうかむしろ知らないこの家に貴方と二人で居る方が不安ですからっ!!
「んじゃ、行って来る」
言葉を失くしている私を満足そうに見た後、疾風は一言そう言って家を出た。
「朝から何なんだ・・・・あの人は・・・」
無駄に脱力感を覚えながら出て行った奴を見送ったあと私は自分の部屋へと戻る。
さて・・・・・今日1日何しようかなぁ。まぁとりあえず・・・この家に何があるか(勝手に)調べよう。
よし!そうと決まればまず物置よねー。
自分の独断でそう思った私は軽やかな足取りで物置へと向かう。
「わぁ・・・・大きー・・・」
数分後、まだまだ構造の分からないこの家を駆けずり回った挙句見つけたのは巨大な倉に近い物置。
「ったく・・・・ここの家にあるものは何でも無駄に大きすぎるんだっつーの!」
とりあえず物置の電気をつけた後、そこら辺のものを蹴りながらそうぼやく。
これじゃぁ何をどう探せば良いか分かんないじゃん!・・・・元から当てがあったわけじゃないけど。
まぁ、こんな広いところなんだし1つぐらい面白いものがあるはずよねぇ。
「じゃ、探索開始ー!」
気合を入れるために1人でそう威勢良く声を出して、怖いもの知らずの私は大きな物置へと足を踏み入れた。
――物置に入ってから数時間経過。
「何で・・・・何も無いのよー・・・」
だだっ広い空間をひたすら歩き回ったけれど、特にこれと言って珍しいものが見つからず結局入り口に戻って来て座り込む。
私の数時間を返して・・・・。
ぐったりしながらふと辺りを見回す。
「・・・おっ?」
丁度目に付いたのは、物置の一角に密かに置かれている本らしきもの。
「何コレ」
興味津々でパッと立ち上がり、本のある場所まで歩いていく。
・・・・って、近づいてみて分かったけどこれ本じゃなくてアルバムじゃない・・・・。
ま・・・・いっか。暇だし見るだけ見てみよう。
「よいしょ・・・っと」
面倒くさいのでその場に腰を下ろして、立てかけてあったアルバムの1冊を適当に取り出す。
ずいぶん長い間ここにあったのか、それは結構なホコリをかぶっている。
丁寧にそのホコリを払った後、私はワクワクしながらゆっくりとページを開いた。
「これ・・・・私?」
まず現れたのは小さい子の写真。男の子と女の子が二人で楽しそうに遊んでいる写真だった。
そしてその女の子は、紛れもなくこの私。
いくら記憶喪失でも自分の小さい頃の姿ぐらいは直感で分かる。
「んー。でもこの隣の男の子は一体・・・・」
女の子が自分だと言うのは分かったけれど、隣に写っている自分よりも少し年上の男の子が誰かと言うのが分からない。
誰なんだ!?・・・・気になる。
数秒考えてみたけれど思い当たる人物が見つからず、私は次のページをめくる。
そこには先ほどの写真よりも少し成長した私達の姿があった。
「あーこれ・・・・幼稚園の頃の写真?」
そこに写っている私は真新しい鞄を持ち、黄色の帽子をかぶって思いっきり笑顔でピースをしている。その隣ではやっぱりさっきの男の子が立って無邪気に微笑んでいた。
「幼稚園かぁ・・・・」
ジッと写真を見つめ、ポツリとそう呟く。やっぱり・・・・何も思い出せないや・・・。
病院を離れて早2日。重大問題発覚です、医師。私が忘れてるのは疾風のことだけじゃありません。正確に・・・・って言うか、もっと分かりやすく言うと・・・・私が覚えてるのは自分の名前と誕生日だけです。
「うわー・・・ヤバイじゃん私!」
思わず顔を覆ってそう叫ぶ。広い物置に自分の声が不気味に木霊する。
・・・・怖い。
「と・・・・取りあえず出よう・・・」
アルバムをしっかりと抱きしめて、私は外に出る。
いくら物置に電気があっても、やっぱり外の方が明るくて気持ち的にも落ち着く。
ふぅ・・・と長い息を吐いた後、リビングにあるイスに腰掛けて私は再度アルバムをめくる。
次に現れたのは小学校の頃の写真だった。ランドセルを背負ってすっかり大人びた私と、その周りにいる人達。多分友達なんだろうけど・・・・ゴメンなさい。思い出せません。
そしてそして、しつこいほどやっぱり隣にはあの男の子がいる。
「あ・・・あれ?この子・・・どっかで見たことあるなぁ・・・・」
成長するにつれてだんだんハッキリしてきた男の子の顔に見覚えがあった私は、空っぽの頭の中を必死で探る。
誰だったっけ・・・・・。
思い出せ、自分!!
「・・・っはぁ〜!ダメだぁー!!」
数分粘ったけれどやっぱり何も思い出せず、そう叫んだあと観念したように次のページをめくる。
あー・・っと、これは中学の写真で・・・・・って・・・・まさかこの男の子は・・・!?
写真を見た瞬間、私はあんぐりと口を開ける。
少し化粧をしてバッチリカメラ目線で写っている私とは対照的に、隣ではどこか気だるそうな黒髪の背の高い少年が立っている。
これはもしや・・・・・・・疾風!?
「なっ、何でコイツが私と一緒に写ってんの!?」
まっ・・・・まさか今まで写ってたのも全部奴・・・・!?
「ありえない!!何であんな可愛い子が・・・・こんな冷めた兄ちゃんになっちゃってんの!?」
今までの写真と高校時代の写真を見比べて驚愕の声を上げる私。
でも確かに・・・・小さい頃からの面影はあるかもしれない・・・・。
・・・じゃなくて。
私と奴とのつながりは一体いつから・・・・・!?
驚きのあまり頭がついていかない。っていうか記憶が無いのに考えるのが無理だっつーの。
「・・・アイツが帰ってきたら絶対問い詰めてやるッ・・・」
パタン、とアルバムを閉じた私はそう心に決めて少しだけ不気味な物置にアルバムをしまうために再度足を踏み入れた。