第3話 学校へ行こう―1
 突然ですが・・・・
 私は馬鹿です。
 昨日の夜無事に家に帰れた事に安心して「奴」に抱きついた上に家に帰ってから即寝ちゃったんだ・・・。
 結局肝心の話聞きそびれちゃったじゃないか馬鹿野郎!あぁもう・・・外に出たのも無駄足じゃん!結局暗くて何処に何があるかも全然わかんなかったし・・・・。
 もしかして記憶と一緒に脳の1部も損傷しちゃったとか?
 ・・・・・・・・・・・・・。
 ま、まさかねっ。
 何か最近自分がかなりアホキャラになってきている気がして少しだけへこむんだけど・・・。
 前の「私」は一体どんな性格だったんだろう・・・・・。さっさと戻って来てくれ、マイメモリー。
 ・・・とまぁ朝からこんな馬鹿なことを考えながらパジャマを着替えてダイニングに向かう。
 そこには私より早く起きて、ダイニングで新聞を読みながらコーヒーをすすっている疾風の姿があった。
「おはよう」
「おはようご・・・・・・おはよう」
 私がダイニングに入ってきたのに気付いた疾風は一瞬だけこちらを見て、また新聞に目を戻す。
 またしても敬語になりそうなのを慌てて訂正する私に奴はふっと目を細めた。
 ・・・・笑うな馬鹿野郎。
 そう思ってジーッと睨んでいると。
「あ、そーだ」
 何か思いついたように顔を上げる疾風。
「そういやお前、学校どうする?」
 ・・・・・学校?
 久々に聞いた単語に少しだけ首を傾げる私。そして次の瞬間ハッとして大きく目を見開く。
 そうでしたそうでした・・・・・!!今まで色々あって忘れてたけど・・・一応私高校生なんでしたっ!!何で今まで忘れてたのかも結構不思議なんだけど・・・。
「ど・・・・どうしましょうねぇ」
「聞いてどうするんだよ」
 アハハ・・・と曖昧な笑みを浮かべる私に素早く突っ込みを入れる疾風。
「だって・・・・!!」
 学校とか・・・記憶喪失なのにちょっと行きづらいじゃん!?あーでもこのまま行かないとみんなに忘れられちゃいそうだしー・・・ってか私がみんなの事忘れてるんだけど・・・・・。
 あーもうとにかくどぉーしよぉー!!
「行く、か?」
 少しパニくっていた私に、不意にそんな声がかかる。
「えっ・・・・」
 私は思わず疾風を見つめる。先ほど投げかけられた問いは確認に近いものだった。
 ――コク。
「よし決定」
 ・・・・・どぁぁー!!
 勝手に首が動いたっっ!!
 べっ、別に学校に行きたくないわけじゃないんだけどね!?でもね!?心の準備がっ・・・・
「実はそう言うと思ってもう学校には言っおいたんだよ」
 ・・・・・・。
 勝手なことしてくれたねぇ疾風さん・・・・。
「・・・・分かった」
 観念したように私は頷く。もうこの際学校でも何でも行ってやるよ!へんっ!入院で休んでた分の授業の1週間を取り返してやるっ。
 そう心に決めた私に、奴は嫌味ったらしくニコッと微笑む。
「まぁ学校でも行ってせいぜい記憶を思い出すために頑張るんだな」
 ・・・・・むーかーつーくー。
 そんなことで思い出せたら苦労しないわよ馬鹿!!
 また新聞に目を落とした奴に、思いっきりべーっと舌を出す。
 悔しいけど今の私に出来るささいな抵抗です。
「あ、もうそろそろ俺会社行くから」
 そうしていると不意に疾風が顔を上げ、壁にかけてある時計に目をやる。
「(さっさと)行ってらっしゃい」
 たっぷりの皮肉を込めてそう言うと
「今日は昨日よりも早く帰れると思うから勝手に家から出るなよ?」
 と返された。
「うっ・・・・・・!!」
 何処まで行っても嫌味な奴っ!!何でその話持ち出すかなぁ!!もう・・・過去の事は水に流しましょうよ?
「学校は明日からだからな。退屈かもしれないけど1日だけ我慢しろよ」
 返す言葉が無くて奴を睨みつけていると、哀れむような顔でそう言われポン、と肩を叩かれる。
 ・・・・・・もう本当、さっさと出勤してくれ・・・・・。
「じゃぁな」
 あぁ・・・やっと行ったよあの人・・・・。絶対私の事からかってるよね・・・・。
 ――ムカツク。
 何で私はあんなのと同棲してたわけ?絶対恋人とかありえないしっ。
 まぁそれも記憶が戻ったら分かる事よね・・・・。
 部屋から出て行った嫌味な男を睨みつけながら、絶対記憶を思い出してやると心に決めた私だった。
 それよりも・・・・・明日からの学校生活、一体どうなるか不安だ・・・・。

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