第3話 学校へ行こう―2
「ハァ〜。結構可愛いじゃん、制服」
 鏡の前で自分の姿をチェックしながら、思わずそう感嘆の声を漏らす。
 昨日までは気分が少しだけ沈んでたけどいざ学校の制服を着てみるとなんだか心がウキウキしてきた。
 青いネクタイに、紺色のブレザー。そして同色のチェックのスカート。
「可愛い〜」
 鏡の前でくるっと1回転し、もう1度そう言う。思わず表情が緩んでしまう。
 今まで私、こんな可愛い制服着て学校行ってたのかぁ。
 そんな事を思いながらヘラヘラとした表情のままリビングに向かう。
「間抜け面」
「は!?」
 まず朝1番で言われた言葉は、それ。
「人の顔見て良く朝からそんな事言えるわねぇ・・・!?」
 ぐっと拳を握り締めながらそう言うと、疾風は涼しい顔で
「思ったより楽しそうじゃねぇか」
 なんて言いながら口の端を嫌味に吊り上げる。
「ま、まぁね。どうせ学校行くなら楽しみたいし?」
「どーせ制服見て浮かれてたんだろ」
 うっ。
 すっ・・・鋭いところついてくるじゃないコイツ・・・・・。
 図星な上に何も言い返せない自分が悔しいー!!
「まぁどうでもいいけど・・・」
 悔しそうに顔をゆがめている私を面白そうに見てから、おもむろにイスから立ち上がる疾風。そしてどんどんこっちに近づいてくる。
 え?何・・・・?
 だんだんと近くなる距離に反射的に身構えると、
「これ、ちょっと短すぎないか?」
 そんな事を言われてスカートの裾をきゅっと掴まれる。
「ひゃぁ!?」
 いっ・・・・いきなり何すんのよコイツ!?
「・・・変態!!ロリコン!!」
 恥ずかしさのあまりギュッと目を瞑りながらそう捲くし立てる私。
「俺は保護者代わりとして当然の事を言ったまでだけど?」
 顔が真っ赤な私を面白そうに見てニッと笑いながらそう言う疾風。
「ほっ、保護者代わりでもやっていい事と悪いことがあるでしょうよ!?」
 世間的に見てさっきのはずぇっっったい、いけませんよね!?
 あれは立派な「セクハラ」ですよ!!
「・・・って、無視かい!!」
 人が必死に真っ白な頭で考えてたのに奴は何食わぬ顔で私に背を向ける。
「あーハイハイ。分かったから早くしないと学校に遅刻するぞ」
「え?」
 奴の言葉に促され時計に目をやると・・・
「わー!!遅刻ー!!」
「だから言ってるだろ・・・」
 学校までは確か歩いて20分あるらしい。でも時計を見る限り・・・あと10分しかない。完全に遅刻だぁ!!
「いっ・・・・・行ってきますっ」
 準備しておいた鞄を勢いよく掴んでそう言うと、私は玄関にダッシュ。
「あ、那智」
 そんな私を呼び止める声が背後からかかる。
「え?」
 急いでるのに・・・。そう思いながらも律儀に振り返ると、
「・・・・気をつけろよ」
 さっきとは打って変わった真剣な表情と声で、疾風がそう言った。
「き・・・気をつけます」
 急いでいたのでわけの分からないままそんな返事を残して、私は家を飛び出した。
「っていうか・・・・何に気をつけるのよ?」
 学校までの道のり、走りながらポツリとそう呟く。
 んー・・・学校生活ってそんなに危険なのかなぁ・・・・。
 このときの私はこんな暢気なことしか考えて居なかった。

「つっ・・・・着いた・・・・」
 8分後、遅刻ギリギリで見慣れない校舎の前に立つ私。ここまでずっと走ってきただけあってかなり息が切れている。
「あー・・・間に合ってよかったぁ・・・・・」
 とりあえず登校初日から遅刻しなくて良かった・・・。
 のほほんとしながらそんな事を考えていた私は、その直後ハッと我に返る。
「教室・・・・何処!?」
 ぎゃぁー!!せっかく間に合ったと思ったのに場所がわかんなかったら意味ないじゃんっ!!
 記憶喪失の馬鹿野郎ー!!
 意味不明の心の嘆きとともに、ただあたふたと校庭を歩き回る私。
 と、その時。
「・・・麻生・・・?」
 不意に背後からはそんな声が。
「ハイ・・・?」
 少し恐々と振り返ると、そこにはいかにも「不良」って感じのオレンジの髪の兄さんが立っていた。
 ・・・っていうか誰ですか。
「あー、やっぱ麻生じゃん!!」
 呆然と立ち尽くす私に、外見とはかけ離れた無邪気な笑みを浮かべながら駆け寄ってくる少年。
「1週間ぶりー!元気だったか?いやぁ、お前居なくて学校つまんなかったんだぞ!?」
「は・・・・ハァ」
 朝からかなりハイテンションなその少年にただ戸惑う私。
 ・・・ハッ。
 そう言えば遅刻・・・・!こんな奴にかまってる暇ないー!!
「スイマセンっ。教室って何処ですか!?」
「えー?教室?そんなとこ行かないで屋上行ってサボろうぜ?」
「いえ、本気で教室教えてくださいって!!」
 マイペースな貴方には悪いけど今私には時間がないんですっ。っていうか学校来て早々サボりに誘わないでくださいっ。
「んー。麻生って前はそんな真面目じゃなかったのになぁ・・・・・」
 少年は私の質問には答えず、アゴに手を当て1人ブツブツそんな事を呟いている。
 あーもう早くしてくれよ!!
 じれったさで思わずダンダンと足踏みをする私。けれどやっぱり目の前の彼はのんびりと1人何か呟いていて・・・・。
 そして、そうこうしている間に貴重な2分間が過ぎ去って。
「「あ」」
 キーンコーンカーンコーン・・・という定番のチャイムが校舎から響いてきた瞬間、私と彼は同時に声を上げる。
 ・・・・・終わった・・・・・。
「鳴ったねぇ。チャイム」
 ガックリと肩を落としている私を他所に、彼はのんびりとそう言う。
 あぁ・・・貴方のせいで私の学校生活が・・・・・。
 っていうかここまで走ってきた分の体力を返しやがれ馬鹿野郎!!
 無念と悔しさのあまりキッと目の前の少年を睨みつけると・・・
「ってなワケで・・・・行こうぜ!」
「は!?」
 イキナリ腕をグイっと引っ張られる。
「何処に!?」
「屋上〜♪」
「きょっ・・・・教室ー!!」
「え?今更何言ってんだよ。俺とお前の仲だろ。付き合えよ〜」
 どっ、どんな仲なんですかぁ!!
 悪いけど今の私は貴方の記憶なんてこれっぽっちもありませんよ!!

 麻生那智17歳、登校初日から何やら先行きが怪しいです。

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