第3話 学校へ行こう―3
 はぁ〜・・・。今日も空が青いなぁ・・・・。

 ・・・・・じゃなくてっ!!
「何してんの私ー!!」
 あぁ・・・一瞬、ほんの一瞬だけ場の雰囲気に流されてしまった!!屋上があんまりにも気持ちいもんだから・・・・って言い訳になってないけど。
「ウルサイなぁ麻生は・・・。前はもっとのんびりしてたのに」
 私をここに連れてきた張本人はそんな事を言いながら1つ欠伸をして目を閉じる。
 ・・・・寝るのか?人をここに連れてきといて勝手に寝るのか?
 ――それは許さない。
「いでっっ!!?」
 青い空にバシっという鈍い音と彼の悲鳴が響き渡る。
「なっ・・・何すんだよ麻生!?」
   そして、涙目で頭を押さえながら私のほうを振り向く。
「何って、君こそ何してくれんのよ。私は教室が何処かって聞いたのに。誰も屋上で寝たいなんて言ってませんが?」
 冷たい目でそう言いながら地面に寝転がっている少年を見下ろす。
 私の学校生活・・・しかも1日目を無茶苦茶にしないでください。
 けれど目の前の少年はまるで私の言った事が理解できていないみたいに目をパチパチとする。
「なぁ麻生・・・・気持ち悪いから俺の事”君”なんて呼ぶのやめてくんない?たった1週間会ってなかっただけなのに妙な距離感感じるだろー」
 そう言いながら少年は私のほっぺたをぷにっとつまむ。
 ・・・・離しやがれぃっ!
「痛っ!!お前っ・・・・ちょっと見ない間に凶暴になってないか!?」
 私は思いっきり自分のほっぺたをつまむ彼の手を払いのける。彼は少々ショックを受けたように払いのけられた手を胸に抱いている。
「あーもう・・・・馴れ馴れしいっ!悪いけど私は貴方のことなんて全く何も知りませんからっ!」
 ついにキレた私は少年に向かって思わずそう叫んだ。青い空に、今度は私の声が響き渡る。
「・・・・・・・・は?」
 私の言葉を聞いた彼の第一声がそれ。
「なっ・・・・何言ってんだよ麻生;;冗談キツいって。俺の事知らないわけないだろ?1年のときからずっと一緒にいるのに・・・」
 冗談はやめてくれ。
 そんな顔で少年は話す。けれどその表情は何処か落ち着かないもので。
 もしかして・・・いや、確実にコイツの様子からして・・・・私が記憶喪失だって知ってない?
 ・・・・先生ー!クラスメイト一人が大変なことになってるんだから・・・それなりの対処をしてくださいよっ!!
 あまりにも不適切な学校の対応に私はガッカリですよっ。
 これじゃぁどんな混乱が起こるか分からない・・・・・・。
 私は1つため息をつくと、困惑の表情を浮かべている少年にゆっくりと今の自分の状況を話す。
「あのね・・・今から言う事信じられないかもしれないけど、聞いてくれる?」
「おっ・・・おう」
「実は私1週間ぐらい前に事故に遭ったらしいんだ。それで1部の記憶が飛んでるみたいでね?今は自分の名前と誕生日ぐらいしか覚えてないの。だから貴方の事も何も分からない」
 必要な事だけ簡潔に説明した後、ゆっくりと彼の表情を伺う。
 するとおかしなぐらい想像通り、目を見開いて驚いた様子の少年。
「じっ・・・・・事故・・・・?」
「ウン。事故」
 彼の質問に即答する。さっき聞いたばかりの事でも信じられないともう1度問いかけてしまうのが人間。すると、
「だっ・・・・大丈夫か麻生ー!?」
「わぁ!?」
 少年の声とともに、突然私の体が大きく揺れる。
 っていうか・・・揺らされてる。私の肩は今、少年の手にがしっと掴まれている。
「大丈夫だからやめてくれる!?」
 必死でそう言うと
「あ・・・あぁ。スマン」
 正気に戻った彼は案外あっさりと手を離してくれた。
 ・・・何なのこの人・・・・。
「え?っていうかマジで?記憶喪失?」
 やっと解放されたと思ったのに次の瞬間には質問攻めの私。
「あー・・・えっと・・・・詳しく話すから1つずつ聞いてくれる?」
「うぃっす!!」
 返事はいいんだけどなぁ・・・・。その興味津々の目が何か気に入らない。未知の世界を知ったときみたいに、嬉しいような驚いたような顔で少年は返事をする。
 ハァ・・・と長いため息を吐いた後、私は彼の疑問に1つ1つ丁寧に答えていく事となる。

――「とりあえず、事故に遭っても頭以外はなんともなかったってことだな?」
 数分後、私の話を一通り聞いてやっと理解したらしい少年はもっともらしい顔でそう言った。
「頭以外はって言うな!!」
「あー悪い悪い」
 言葉とは裏腹に、特に悪びれた様子もなくそう謝る彼に思わず蹴りを1つ入れてやろうかと思った。
 何よみんなして・・・頭以外はって・・・!!
 そう思って少しいじけていると、
「それにしても・・・・記憶喪失って大変だなぁ・・・」
 ポツリと少年がそうつぶやいた。
 何よ・・・そんなしんみりして。もしかしてコイツ結構良い奴だったりする?
「何か分からない事があったら何でも俺に聞けよ?お前の事なら俺は大抵知ってるから。まぁ・・・3サイズは分かんないけど」
 ・・・・ハイ。前言撤回。
「誰があんたに知られてたまるかぁっ!!」
 私が叫んだあと、スパーンという気持ちいい音が響く。
「いたーい!!!何だよさっきからー!!麻生の馬鹿野郎っ!」
「アンタに馬鹿野郎って言われる筋合いはなーいっっ」
 そう叫んだ直後、私はハッと我に返る。
「そう言えば・・・・アンタ何ていう名前なの?」
 多分ここに来てから結構な時間経っているんだろうけど、私は初めてそこで名前を尋ねる。
「あぁ・・・いくら記憶喪失だからって俺の名前まで忘れるなんて・・・。俺とお前が築いてきた絆もあったもんじゃねぇな」
 少年は肩をすくめながらそんな事をほざいている。
 いや、もうそんな絆どうでもいいからさっさと名前教えてよ。
 けれど彼はじらすようにニカっと笑って言う。
「知りたい?」
 だから私もニコッと笑って返してあげた。
「教えてくれないなら私の記憶からアンタの存在がよみがえる事は一生ないわね」
「・・・・・・」
 私の言葉を聞いた彼の表情が一瞬にして引きつる。そして・・・
「あっ、麻生〜!ジョークだよジョーク!アメリカンジョーク〜!!」
 そう言って私に泣きついてくる。
「もー。麻生は素直じゃねぇんだからさぁ。そんなに知りたいなら仕方ない。教えてやろうじゃないか!俺の名前は海道洋介かいどうようすけ、17歳!趣味はナンパでぇ、ちょっと注目されやすいシャイな男のこさっ」
「そりゃ注目されるよね。髪の毛オレンジだし」
 聞いてない事までベラベラと喋る海道に私はしれっとしてそう返す。
「・・・お前ノリ悪くなったな・・・。記憶喪失って人格まで変わるのか?」
 そんな私を見てショックを受けたようにそう言う海道。
「あ、ちなみに俺の事は今まで見たいに洋介って呼んで良いからなっ」
「却下」
「何でだよー!!」
 アンタは私に名前で呼ばれたいのか。
 思わずそう思ってしまうほどのだだのこねように、思わずため息が漏れる。
「ゴメン。私初対面の人に名前を呼び捨てできるほど軽い女じゃないから」
「初対面じゃないだろ!?」
「私の中では初対面なのっ!!」
 あーもうコイツはっ!人の言葉にイチイチケチつけるしか能がないのか!!
 一体私は何でこんな奴と知り合ったんだろう・・・・・。
 この時の私の頭の中には、そんな疑問が浮かんでしまった。
 っていうか初日から遅刻して授業サボって・・・おまけに学校側の対応は悪い。
 私の運は尽きてしまったのか!?

 トップ 


inserted by FC2 system