モドル | ススム | モクジ

● 私の彼氏は・・・ --- 泣くなよ。泣いてなんかない。 ●

うーん・・・・。
この空気は・・・何だかなぁ。
辺りを見渡して、私は密かに顔をしかめる。みんな思い思いの異性と話して、中でもダントツ人気なのはやっぱり有沢君。
ひっきりなしに女の子が声をかけて、それに笑って答える。
・・・笑ってるんだけど、目が怖い。
みんな夢中で話してるから気づいてないかもしれないけれど。客観的に見ている私は冷や冷やしてるわけですよ。
いつこの人が爆発するんだろう、って。
有沢君から発せられるオーラは先輩がキレた時と同じぐらい、ドス黒い。向かいに座ってる私の身にもなってほしいよ皆。羨ましがる前に体験しようよ、この空気。
っていうかさぁ・・・人数合わせに来たけど、私もはや用なしなのでは?
だってみなさん、それぞれ相手見つけてるんですもん!あ、でも私が一人居なくなったら女の子の方が一人少なくなって、向こうの男子が一人余るわけで・・・・。
って、こんなところで人のこと気にしてどーするよ。
「あー、ごめん。私用事あるからそろそろ帰るね・・・」
わざとらしく携帯の時計に目をやって、申し訳なさそうにみんなにそう言う。
「え?アリサ帰っちゃうの?」
「うん。ちょっと急用が・・・」
「・・・そっか。気をつけて帰ってね?」
「うん、ありがとー」
一応みんなに心配されながら、席を立つ。無理に友達が私を引き止めないのはライバルが減ればそれだけ都合がいいからだって事は、この短時間の間にしっかり学習した。
女って怖いなぁ。
でも、これで解放されるよー!別にやましい事もないし、これでまともに先輩に顔合わせられ・・・
「あ、じゃぁ俺黒澤さん送ってくわ。」
・・・・・・る?
って、何でどうして。
どうして有沢君まで席立ってんのー!!!
「い、いいよ別に!まだ来たばっかだし有沢君だってもっと話したいだろうし・・・」
「いや、気にすんなよ。それに俺が抜ければ人数がきちんと合うだろ?」
「うっ・・・」
「えっ、有沢君行っちゃうの!?」
「ごめんね。」
えー!と、残念そうに言う女の子たちに笑って謝り、有沢君は「早く行くぞ」と私に目で訴えてくる。
しかもその目、怖いです。
「じゃ・・・じゃぁ・・・」
従うしかないキツイ目に負けた私はおずおずとそう言って歩き出した彼の後に続く。
「有沢ー、彼氏もちに手出すなよー」
「うっせぇ。」
背後では、茶化すようなそんな声。・・・と、無念と妬みが入り混じった友達の視線。
こ・・・怖いよ!!!
「私、もうみんなに顔合わせられないかも・・・」
「何で?」
「何でも!」
はぁ、と溜息をつきそう言うと有沢君は面白そうにそう言った。
人が困ってんのに何が楽しいんですか貴方。やっぱり何か嫌味な人だ。
お店を出ると、今までの爽快感は何処へやら。少しと言わずムッとした空気が体にまとわり付く。
「暑い・・・」
「夏だからな。ウダウダ言っても仕方ない。」
ポツリと独り言のつもりで漏らすと、返事が返って来たので少し驚く。
「・・・ねぇ、何で有沢君まで抜けてきたの?」
何か話さないと気まずい。そう思った私は今1番の疑問を持ち出した。
そう言えば私、最初にこの人にバカにしたような笑み向けられてんだった。
てっきり「何だコイツ」とか思われてるんだと思ってたのにどうして・・・
「あぁ、そんなこと?俺嫌いなんだよねー。あぁいう媚って来る女。」
・・・そう言うことですか。
「じゃぁもう1つ質問。何で合コンなんか行ったの?」
「人数あわせ。」
即答ですか。
だよねぇ。明らかにドス黒いオーラ出てたもん。
「そう言うアンタは?」
と、急に立場が逆になりそう質問され私は一瞬口ごもる。
「・・・人数あわせ。」
「何だ、そっちもかよ。」
私の返答を聞いた瞬間、ハッと可笑しそうに笑って有沢君が言う。
「だって、どうしてもって言われて・・・」
「意志の弱い奴。」
・・・・何を!?
ってかよく考えたら失礼だよね、この人!!初対面で笑うし本心で何か言うし!!
「・・・もーいいよ。とりあえず合コンからは抜け出してきたし、私一人で帰れるから。口実でもここまで送ってくれてありがとう。サヨウナラ。」
あくまで素っ気無くそう言って、私は先を歩いていた彼を追い越す。
「おい、こんな事で怒るなよ。気が短い女ってモテないぞ?」
「ほっといてよっ・・・。モテなくても私にはカッコイイ彼氏が居るからいいんだもん。」
ごめん、ちょっと見栄張った。
でもこんな事言われて言い返さずには居られないでしょう!?
普段は良く言って温厚そうな、悪く言って優柔不断な私だけど言われっぱなしじゃ気が済まない。
「有沢君こそ、初対面でそんなズバズバもの言ってたらモテないよ。」
「別にいいよ。俺、無理に着飾ってる女とか苦手だし。」
「・・・・。」
何か、激しく負けてる気がする。
・・・悔しい・・・・・!!!
「モテる人はいいよねっ。そんなこと言ってても結局は女の人が寄ってくるんだから。」
何ムキになってるんだ自分とか思いつつ、ツンとした顔でついつい口から言葉が出る。
「あれ?もしかして黒澤さん・・・」
と、急に有沢君の声音が変わる。
楽しそうな、人をからかうようなその声。
彼の前を歩いている私の腕が後ろから掴れる。
「何・・・」
「俺に惚れた?」
・・・・・・・・・・・・・。
振り返りざまにそう言われ、硬直する事数十秒。
「・・・・・・ハァ!?」
第一声は、こんなもの。
まぁ、まともなリアクションだと思う。
・・・・いや、こんな冷静に言ってる場合じゃないよ自分。
「あ、あのねぇ・・・私の話聞いてた?一応彼氏居るんだって・・・・」
「彼氏なんて居たって、別の男に惚れる女なんて2人に一人は居ると思うぜ?」
「・・・・っ、私をそんな人と一緒にしないでよ!!」
思いっきり有沢君の手を振り解いてそう叫ぶ。こんな事言われちゃ黙って置けない。
そりゃぁ「先輩一筋ですv」とか「私には先輩だけっ!!」なんて胸張って言えるかどうか分かんないけど・・・。
とりあえず、目の前の人物はありえないって事で。
「私は彼氏を差し置いて他の人になんかっ・・・」
「本当に?」
言われて、思わず有沢君をジッと見る。
ここまで否定してるのに、まだ面白そうにこんな事を言う人は珍しいと思う。
ある意味感心するよ、君。
が、そんな事を思っていると・・・・
「俺はキャーキャーうるさい女より、黒澤さんみたいなのの方がタイプだけどなぁ。」
目の前の嫌味な男が、にやりと笑う。
そして、骨ばった大きな手が私の肩を掴む。
・・・・・って、何かボーっとしてる間に綺麗に整った顔が目の前にあるのですが!?
この急展開にパニくって、頭の片隅で「わぁ、ドラマのワンシーンみたーい。」なんて暢気に考えながらまたしても硬直。
ヤバイ・・・体、力入らない・・・・。
あぁもう・・・こんな事なら合コン来るんじゃなかった!!そうじゃなくてもせめてもうちょい化粧して、皆と一緒に騒いでおくんだった!!
だったらこんな目にあわずに済んだのにー!!!
先輩、ごめんなさい・・・私がバカでした!!今なら少しぐらい怖くても貴方が1番だと言えます!!
だから・・・
誰か助けに来てぇー!!!
「オイ・・・お前・・・」
と、不意に聞き覚えの有る声が耳に届き、それと同時に私の肩を掴んでいた手の力が弱まる。
それはまるで、私の心の叫びが通じたかのよう。
あぁ神様・・・貴方に本気で感謝します。
「うちの後輩に何してんだ?テメェ。」
「せ・・・先輩・・・・っ!」
目の前に居た有沢君が声の方を振り返り、私の視界が開けて。
そして、そこには紛れも無く先輩の姿があって。
思わずへにゃ、と体の力が抜けるのを感じる。立っているのがやっと。そんな感じだった。
ジワ〜ンと、涙がこみ上げてくる。
「先輩ー!!」
「アリサ・・・」
先輩の声と表情からして、「何でお前こんなことになってんだよ」と言う疑問がひしひしと伝わってくるけれどそんなものは今どうだっていい。
完全に彼の疑問を無視して、私は急いで有沢君から離れる。向かうは勿論、我が彼氏様のもと。
「・・・アンタが黒澤さんの言ってた彼氏?」
それまで呆然としていた有沢君が、我に返ってそう問い掛ける。
面白そうな表情が消えていないのは何故でしょう。
「・・・そうだけど、それがどうした。」
今までに無いぐらい怖い顔でぎろり、と有沢君を睨みつけ、私を庇うように一歩前に出ながら先輩が言い返す。
「ふーん。カッコイイ・・・・ねぇ。」
ふっと笑ってそう言って、有沢君の視線が私に移る。
「俺のほうが勝ってない?」
「あ゛?」
何の話かは分からないだろうけど、自分が人より格下だと言われて黙っていられるはずの無い先輩がドスの効いた声を出す。
「お前・・・・早死にしたいタイプ?」
それから、目をギラリと光らせて戦闘体制に入る先輩。
肩を回しているのは、肩慣らしのためだと思われる。
ってか、何か物すっごく楽しそうな顔なんですが!?笑ってる先輩って相当怖いですよ!!
ヤバイよ・・・このままだと本当に有沢君死んじゃうかも・・・。
少しずつ、けれど確実に自分の中で焦りが広がっていく。
が、目の前で面白そうな微笑を称えていた有沢君はおどけたように肩をすくめる。
「別に俺はアンタと喧嘩しようなんて思ってないよ。怪我はしたくないしね。今日のところは仕方ないから帰るけど・・・」
そう言うと、いきなりニッコリと笑い私に目を向ける。
「俺、黒澤さんの事は気に入ったっぽいから。諦めねぇよ。」
「・・・・・・・・・・」
な・・・な・・・
何宣言してんですか貴方ぁー!!
「それじゃ、またな。」
何事も無かったかのようにそう言って、目の前から去っていこうとする有沢君を信じられない気持ちで見ながら。
黒澤アリサ、放心状態です。
「おい・・・アリサ・・・」
少し上の方から、声が降ってくる。
怒っているような、むっとしたその声。それですら、今はとてつもなく安心できて。
今回早かったのは私のほう。
「・・・先輩ー!!」
何か言われる前に、私はしっかりと先輩に抱きついた。
先手必勝っていう奴だと思う。
不意をつかれた先輩が、面食らったような顔をするのが見えた。
「アリサ・・・・?」
いつもならそんな事はないのに、珍しく自分から抱きついてきた私に困惑しつつ、先輩の大きな手が迷いがちに私の背中をさする。
あぁ・・・この人ってたまに物凄く優しいんだよね。
「先輩・・・」
彼の服に顔をうずめながら、その安心感に身を任せて。
「私、先輩が1番好きです。」
少し可笑しな告白をした。
それから顔を上げて、先輩を見上げると。
「・・・お前・・・」
恥ずかしそうな、それで居て困惑したような顔がそこにある。
「何泣いてんだよ。」
「な、泣いてませんよっ。」
本当はちょっと安心して、こみ上げてくるものもあるんだけどそう否定する。
先輩は照れ隠しのように、くしゃりと私の髪を撫でた。
さっきの状況の説明を要求されるのは、もう少し後になりそうな予感。
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