モドル | ススム | モクジ

● 私の彼氏は・・・ --- 肝心なところで、やってくれる ●

「アリサ、帰るぞ。」
相変わらず有無を言わせぬ口調でそう言って、ヘルメットを投げて寄越す先輩。
私が苦手だって知ってるくせにどうしてバイクで通学してくるかなぁ・・・・・。
溜息を1つついてから優美ちゃんに別れを告げて、重い足取りで先にバイクにまたがっている先輩のもとに歩いていく。
もう何度か乗っているけど、未だにバイクは慣れない。だって私スカートだし。そりゃぁ先輩は制服ズボンだからいいかもしれないけど、私のこの短いスカートは風で簡単になびいちゃうんだもんっ。
何より先輩の出すスピードが怖いのなんのって・・・・!
たちの悪い事に、この人は私が怖がるのを面白がってしているからいつも無事に家に帰りつけるかどうかこっちは冷や冷やしている。
全く・・・・・・・。
「安全運転でお願いします・・・。」
「大丈夫だって。いつも無事に送り届けてるだろ?終わりよければ全てよしだよ。」
にやり、と嫌味な笑みがヘルメット越しに見えて私はうっ、と言葉を詰まらせる。
言いたい事はあるけれど、それを言っても聞くような人じゃないから黙っておこう。
でもねっ、私はそのことわざ間違ってると思うんですよ!絶対過程も大事ですって!現に人ひとりの命が危険にさらされてるわけですしっ・・・!
「何難しい顔してんだよ?出すぞ?」
「わぁっ、待ってくださいー!」
先輩はちらりと私を振り返ってエンジンをかける。けれどその声には確実に私を面白がっている風があるから悔しい。
慌てて先輩にしがみついた私だけれど、そんな時不意に私たちに声がかかった。
「あー、隼人が女の子拉致ろうとしてる!」
「うっわマジだ最低ー!」
ビックリして振り返ると、そこには先輩と同じように髪を染めてだらん、と制服を着た不良っぽい人たちが。
・・・・多分っていうか、確実に先輩の友達なんだろうけど・・・・・・・。
先輩も私同様その人たちを振り返って、1度だけ顔をしかめると。
「アリサ、行くぞ。」
「あ、はいっ。」
何事も無かったかのようにそう言って前を向く。
「おい無視んなって!俺ら仲間だろ!」
慌ててさっきの一人が先輩を呼び止めると、仕方ないと言った風に先輩は答える。
「っるせえよテメーら・・・。俺は今から彼女を家まで送ってくるんだよっ。」
「かっ・・・・!?」
「何赤くなってんだよ。彼女だろお前。」
「あ・・・はい・・・。」
でも・・・そんな人前で強調しなくても・・・!!
不機嫌になりかけている先輩の言葉に頷きつつ、私の顔は確実に熱を増している。
「うーっわそれメッチャ嫌味ぃー。」
「なっ・・・!!」
一人の人が小さい子みたいに頬を膨らませて力任せに先輩の頭をなぐる。因みに先輩はヘルメット装着済みなのでそれほど痛くはないようだけど・・・・・
「大ー野ぉおー!!!」
ちょっとアナタ、勇気ありすぎ。
あの先輩を殴った!!?
まぁ勿論、先輩がやられっぱなしで黙ってるわけないんだけど・・・。
目の前で始まったじゃれあい(殴り合い)を呆然と眺めていると、不意に肩にポンと手が置かれる。
「へ?」
振り返ると、もう一人の人がにっこりと笑いながら。
「アリサちゃん、だよね?」
「は・・・い・・・?」
どうして・・・・私の名前を!!?
「いっつも隼人からノロケ話聞いてるよ。」
あぁ・・・そう言うことか。
ホッ、と安堵した私の手を、何を思ったのかその人は急にきゅっと握り締めて。
「俺、隼人のオトモダチの三沢。隼人にもし襲われそうになったらいつでも俺達頼ってねー。」
「はぁ・・・。」
三沢と名乗ったその人は先輩とじゃれ合っているもう一人の人に目をやって、にっこりと笑う。
・・・・っていうか、襲われたらって・・・それはいくらなんでも・・・・・・・。
・・・・・・・ん?でも今まで考えた事も無かったけど良く考えてみたら・・・先輩って絶対女遊び慣れてますよね?
って事は・・・物凄く危険なのでは!?あぁ、何で私今の今まで気づかなかったのー!!
「大丈夫、何かあったら俺達が助けてあげるから。」
「よろしくお願いしますー!!」
「あっ、三沢てめぇ何勝手に手握ってんだよ!!つーかアリサ!お前もなついてんじゃねぇ!!」
タイミングの悪い事に、私が三沢先輩と猛烈に握手をしているところが先輩の目に入ったらしく。
「いいじゃん別に。俺はアリサちゃんの護衛役だからさ。」
「何わけ分からん事ほざいてんだよ!!」
忙しい人だなぁ・・・なんて考えながら、今度は三沢先輩とじゃれ始めた先輩を眺める。
でもこの人にこんな余裕がないところって初めて見たかもしれない。
何だかんだ言いつつ楽しそうな3人を見て、私は思わず微笑んだ。

「アリサ・・・お前あいつらに洗脳されんなよ。」
「え、いい人達じゃないですか。」
「・・・・もう手遅れか?お前。」
素直に答えると、何処かげんなりしたような先輩の返答が返ってきた。運転中だから顔は見えないけど、きっと相当渋い顔してるんだろうなぁ。
「それよりも先輩・・・・こっちに私の家はありませんよ?」
うん、本当はさっきからずっと思ってたんだけど・・・・。
いつもは何だかんだいいながらちゃんと家まで送り届けてくれるのに、何故か今日は見たこともない道を走る先輩に控えめに声をかけてみる。
「あぁ、今日はちょっといいところに連れて行ってやるよ。」
「はぃ?」
「海。普段滅多に見れないだろー。」
「う・・・海ぃ!?」
海って先輩、うちからかなり遠いじゃないですかぁー!!
「行きたくないのか?」
「・・い、行きます・・・。」
と、私の心中を読み取ったかのように声にドスを効かせて先輩がそう言ったので私は仕方なく頷く。
本当に・・・・・この人は強引だ。
・・・・・でも何で急に海?
「たまにはいいだろ。」
「はいー・・・。」
どこか楽しそうに言う先輩に渋々同意して、ふと生まれた疑問に私は頭をかしげる。
でもバイクに二人乗りで行き先が海って・・・・何だか本当に恋人みたい。
・・・・・・・・。
や、やめよう。そんな事考えたらなんだか緊張する。
今こうして先輩にしがみついているのでさえ恥ずかしく思えてきた私は、そんな考えを無理矢理頭から追いやって。
そして何も考えないようにするために、ただひたすら流れていく景色を眺めていた。

――「到着ー。」
先輩のそんな声で私はハッと我に返った。
どうやらぼーっと景色を眺めているうちに目的地についてしまったらしい。
「海・・・・・だぁー・・・。」
ヘルメットを外して視線を上げるとそこには確かにキラキラと水面が光っている。しかもそこに夕日が映っているから何ともいえない幻想的な景色になっていた。
「綺麗ですねー・・・。」
久々に目にする海に見とれ、夢中になってそれを眺めていると。
「――・・・へっ!!?」
急に体が傾いて、私は咄嗟に目を瞑る。多分、体制が崩れてこけると思ったんだろう。
それでも一瞬浮き上がった足は、またすぐ地面について。
恐る恐る目をあけるとそこにはにっこりと笑う先輩の姿。
「せんぱ・・・・」
「お前意外と軽いのな。」
「・・・・意外と!?」
どうやらこの楽しそうな笑い方からすると・・・多分、いえ、確実にさっきのはこの人の仕業です!!
「意外とってなんですかぁ!!」
人をいきなりバイクから抱き下ろしてその言い分って・・・ありですか!!それとも私そんなに太って見えますか!?
だんだん熱を増していく頬からすると、今私は真っ赤な顔で反論しているんだろうと思う。
それでも先輩はおかしそうにくつくつと笑うと、不意に私に手を差し出して。
「放課後デート。今日ぐらいはお姫様をエスケープしてやるよ。」
「先輩・・・」
いつも喧嘩ばかりしててとっても不真面目な人だけど、笑った顔は物凄く純粋で。
そんな表情に一瞬見惚れてしまった事は黙っておこう。
・・・でもまぁ、今私が口に出来る事と言えば。
「先輩・・・エスケープじゃなくてエスコートですよ。」
「・・・・。」
授業まともに受けてないからきっと意味を分かってないんだろうなぁ、なんて思いつつ私は笑いを堪えてそう訂正してあげた。
因みに、このとき先輩の顔が赤かったのは恥ずかしかったからなのか夕日のせいなのか、それは分からないけれど。
先輩はまるで照れ隠しのように「それより」と口を開く。
そうして急に真剣な表情で私に向き直ると、すっと大きな手を私の頬に添えて・・・・・
って・・・・・・えぇ!!?
も・・・もしかしてこれって今から・・・・・き、キスされるんですか私!?
っていうかそのためにここまで連れてこられたんでしょうか!?それならこの人、見かけによらずかな〜りロマンチストなのですがっ・・・!!
綺麗に整った先輩の顔が目の前にあって、しかもジッと見つめられている事に緊張してしまって身動きが取れなくなる私。
キスなんて・・・した事ないよー!!
「目瞑れ。」
「はいっ・・・。」
何故か命令口調でそう言われ、パニック状態の私はいわれるがままにとりあえずぎゅぅっと目を瞑る。
頭の中は真っ白で、心臓は飛び出そうなほどドキドキで。
でも目をつぶるっていうことは・・・・やっぱりそう言うことなんですよねぇ・・・?
あぁもう・・・・なるようになれだぁっ!!
半ば投げやりになりつつ、心を決めた私はジッと目を瞑って唇が重なるのを待つ。
するとすぐに、吐息が近づくのが分かった。
――来る。
私は確信して、緊張でどうにかなりそうな意識を必死でつなぎ止める。
・・・・それなのに。
「とーぅっ!!」
「うぁっ」
「・・・・へっ!?」
急に変な掛け声が聞こえたかと思うと、先輩の体が私にもたれかかるように倒れた。
慌ててそれを受け止めたけれど、さすがにそこまで反射神経のいい私じゃない。
結局は二人してその場に倒れて、何が起こったか分からず呆然としていると。
「隼人ー!!お前は目を離すとすぐこれだ!!」
「アリサちゃん大丈夫?襲われなかった?」
「三沢先輩・・・・?」
「お前ら・・・何で・・・!?」
私を助け起こしてくれたその人は、確かにさっき別れたはずの先輩のオトモダチ。
三沢先輩は極上の笑みを浮かべながら先輩に目をやると、一言こう言った。
「だって、何か楽しそうだったんだもーん。」
「・・・・つけてやがったのか?」
「イエス!!」
「ぶっ殺す・・・・・・!!!」
まだ状況を把握できていない私を残して、先輩はゲラゲラと笑う二人を追いかけて走り出す。
あぁ・・・・全力疾走だ。あの人本気だよ。
黒い学ランが砂で汚れてるって事は、多分あの時先輩は背中を思いっきり蹴られたんだろうなぁ。
呑気にそんな事を考えてふと視線を動かすと、少しはなれたところに別のバイクが止まっていた。
・・・・あぁ、あれであの二人は私たちを尾行してたんですか・・・・・。
何だか一気に気抜けした私は体中から力が抜けるのを感じた。
ぎゃーぎゃー騒ぎながらじゃれ合う3人はやっぱり楽しそうで、何だか少し羨ましい。

結局この日の放課後デートは、何分もしないうちに崩されてしまった。
それでも私的にホッと安心してたのに。・・・・なのに・・・・。
「アリサ、ちょっと。」
計画をぶち壊された先輩は、走りつかれて二人が砂浜に倒れこんでいる隙を見て私に手招きする。
何の警戒も無く先輩に近づいた私は、いきなりグイッと手をつかまれて。
そうして気づいた時には、あっという間にキスされていた。
さっきとは打って変わったその早業に呆然としている私をよそに、先輩は小さく舌打ちをしながら言った。
「今日は邪魔が入ったけど、また改めてゆっくりしてやるからな。」
「け・・・・結構ですっ・・・・!!!」
この時初めて切実に、私は三沢先輩に助けを求めたくなった。
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